異変の前兆
予約投稿です。
次回は午前11時に投稿します。
「今日もオルフは魔物討伐なの?」
最近、多いオルフ兄貴の出張に、昼下がりのティータイムでイザベラの姉御が不満を漏らす。
「仕方ねえ、ですよ。兄貴は有能ですからね。今回の魔物は食えるうえに旨いらしい、ですよ。高い素材を持ち帰られるより、アタシ、私は嬉しいね! です。」
兄貴の顔を二~三日、見ていないのが不満なのは分かっているけど、どうしようもないので矛先を変えるために魔物について話す。
「レミ。二人っきりの時は、友人に接するように話してって、言ってるでしょ? オルフに会えない上に、他人行儀にしないで。私、悲しくなります」
メイドになって二年が経つというのに、未だ不作法な所作をメイド頭のヒルダ姐さんに厳命されて、プライベートでも気を付けていただけなのだが……
「だー! 分かりました! 分かったから、濡れた犬っころみたいな目で見ないでくれよ。イザベラの姉御!」
「……ベラ」
「それは駄目!!」
大恩ある兄貴より先に愛称で呼ぶ訳には、いかないのだ。
「レミ、貴方はオルフを、どう、思ってるの?」
兄貴が居ない一騒動の後、イザベラの姉御が何度目かの質問をする。
「何べんも言ってますけど、オルフの兄貴が抱きたいと言うなら、抱かれます。でも、恋愛感情は無ぇ。アタシにとっては、神か仏みたいな存在だからね」
最初は金貨一枚だったが、アタシが働き始めてから孤児院に、定期的に兄貴は寄付をしてくれている。
それは命懸けの魔物討伐で得た利益の、ヴォルフの家に納めた後の純粋な兄貴の取り分からだ。
『縁が出来たからね。無下には出来ないからね』
そんな理由で命を削って得た金を、孤児院の腹を空かせたガキどもの為に寄付してくれる。
ちょっとは容姿に自慢の有る部分が有るアタシの身体なんて、いつでも捧げられるくらい感謝している。
「……で、抱かれたの?」
イザベラの姉御が、アタシの胸を凝視しながら聞いてくる。
「何べん言えば良いんですか!? そんなことを言われたことなんかねぇ! 兄貴は、貧乳のが良いんじゃないんですか!!?」
今では生活環境が向上したが、養育者から虐げられていたイザベラの姉御は貧しい。
「そんなこと分からないじゃない! 私もヒルダも!! そんなことを言われたことないんだから!!!!」
…………ついでに、ヒルダ姐さんも貧しい。
ーーーーーー
ーーロック・ベアーー
体長が三メートル近い熊に似た体格で、石のような硬い毛並みから石と呼ばれるのではなく、猿のような長い尻尾の先が文字通りの岩石状になっているのが由来。
基本的に草食だが、獰猛で縄張り意識が強いので餌場に決めた場所では視界に入っただけでも襲い掛かって来るほどで、流れ者の場合、餌場が想定出来ないために危険が高まる。
高い攻撃力と防御力のため銅級冒険者が数人で相手する程だが、硬い毛皮や尾先、草食のため香り高い肉、薬効の有る内臓など人気は高い魔物である。
ーーーーーー
エルネスト伯の治める管轄領地の中でも、此処より暖かい地域に生息しているはずの魔物を見ながら不審に思う。
(おかしい。最近のエルネスト伯からの緊急依頼の魔物全てが、生息域外の流れ者。その魔物の共通点が、此処より暖かい地域の魔物)
エルネスト伯の領地で合致する地域は、鉱山の在る火山地域だけなのだ。
(火山地域に何か起きたのか? エルネスト伯のことだ。調査をしているのだろう。その辺りのことは任せよう。今は、試作品を試す絶好の機会だ)
恐れ多くもサンタナ様から運んで頂いた試作品の装備を身に付け、実験を開始する。
「ーー!? グルァ!!!?」
ロック・ベアが、鉈のような片手剣を持ち、所々に通常より隙間の有る防具を身に着けた俺を発見し、警戒する。
ーー魔装・爪・ーー
いつもなら腕の二回り近くの太さの魔力を纏う爪が魔狼の苦手な白銀に抑えられて、細く鋭く集約する。
息を吐く時に大口を開けて吐くより、口を窄めて吐いた方が勢いが付くのと同じ理論だ。
「付与・切れ味向上」
フランベルを使った時のように魔力を流し、剣の内部に銀で無理やり閉じ込める。
レオナと共に学んだ錬金術で付与を行い、閉じ込めた魔力に方向性を与えて利用する。
あらかじめ、剣に付与を与えていれば一工程で身体強化と武器強化が出来る代物だ。
「グルァァアアァーーーーーー!!!???」
ほんの少しだけの魔力を込めただけの斬撃を受け、紙を裂くような抵抗感だけで頸動脈を切断されて、ロック・ベアは絶命する。
「実験は大成功だ。だが、全力なら壊れるな。腕の良い錬金術士と鍛冶師に依頼しなくては」
発動しただけで破裂したり、抑え込みすぎて発動を阻害したりと設計の段階で時間が掛かった装備が、ようやく形になった。
後は、より効率的に抑え込むために巧く封魔を付与出来る錬金術士と、掛かる負荷に耐えられる装備を作れる鍛冶師を手配するだけだ。
時間が作れたら、サンタナ様が言っていた職人達を当たってもいいかもしれない。
今生で、まだ成人前の男の子として、新しい武器の完成に向けて、ワクワクが止まらなかった。
稚拙な文章を読んで頂いてありがとうございます。




