after:夢の始まり 表
ある日の夜。
何か、違和感があって目が覚めた。
「……?」
寝起きで少し霞んだ目を擦りつつ、違和感の元を探る。
すると、お腹の辺りに何かが乗っている感覚があった。
布団じゃない、何か、暖かいものだ。
不思議に思って、布団をめくる。
「…………え、ユウ?」
予想外の事態に眠気が吹き飛ぶ。
視線の先では、ユウが僕のお腹の辺りに腕を回して抱きついていた。
「ちょ、ちょっと、ユウ、なにが……」
ユウに慌てて話しかける。
どういう状況なのか、どうして僕の布団の中にいるのか。
驚きのままに、そう質問しようとし――そこで気が付いた。
「ユウ……?」
ユウが、震えていた。
顔を僕のお腹に押し付け、すがりつくようにしている。
混乱していた頭が一気に冷静になった。
「ユウ、どうしたの?」
「……」
何かあったのか聞きたくて、尋ねる。
でも、ユウはお腹に回した手の力を少し強めるだけで、返事はなかった。
どうしたものかと、少し悩む。
……そういえば。
昔、僕もこんなことがあったな、とふと思い出した。
あれは小学生になったばかりの時だったか。
昼に見たホラー映画のことが忘れられなくて、怖くて、母さんの布団にもぐりこんだことがあった。
……確か、あの時母さんは――。
「……」
手を伸ばし、ユウの背中に手を当て、ゆっくりと撫でる。
ゆっくり、ゆっくりと。僕の体温を伝えるように。
あの時の僕と、今のユウが同じなのかはわからないし、違う可能性も高いと思う。
でも、あの時の僕は母さんに撫でられて、確かに安心できたから。
同じように、ユウに大丈夫だと伝えたかった。
「……」
どれくらいの時間が経ったか。
撫で続けていると、段々ユウの震えが止まってきた。
「……ユウ、大丈夫?」
「……うん、ありがとう」
今度は返事が返ってきた。
まだ顔は俯いたままだけど、声は普通で安心する。
「……真」
「なに?」
「……背中、ポンポンってして欲しい」
「ああ、いいよ」
背中を撫でていた手で、ユウの背中を軽く叩く。
ポンポンと、一定のリズムで。
「……はふう」
大きく息を吐く声がした。
その息が服の隙間を通り抜けて、お腹に当たる
少しだけくすぐったかった。
「……夢を、見たの」
「夢?」
「そう、嫌な夢とか、楽しい夢とか、とにかくたくさん」
例えば、とユウが夢の内容を説明してくれる。
それは確かに様々で、良い夢と悪い夢が交じり合っていた。
ユウがこの家から出て行ってしまう夢。
僕が他の女性と仲良くなってしまう夢。
僕とユウが寄り添って本を読んでいる夢。
僕とユウが違う形で恋人になる夢、など。
それ以外にも、様々な夢を見たらしい。
「それで、悪い夢が、怖くて」
「……そうなんだ」
ユウが出て行ったという夢と、他の女性の夢だろうか。
それは確かに、僕にとっても想像したくない悪夢だ。
ユウがいなくなるなんて今の僕には耐えられない。
「ユウ」
「……ん」
ユウの背中を叩いていた手を動かし、抱きしめた。
「……真」
「ユウ、僕にはユウがいてくれれば、それだけでいいんだ」
両手でしっかりと、離さないようにユウを抱きしめる。
ユウに出て行って欲しくない。それに、他の女性となんて考えられない。
「……真」
ユウも手を僕の背中に回し、抱き返してくれる。
深夜特有の静けさの中、ユウの息遣いと鼓動の音だけが聞こえる。
それからしばらくの時間が経って。
気が付いたら眠っていた。
◆
頬に、何かが当たる感触がした。
「……ん」
同時に、まぶたの上から目を刺激する光を感じて目を開ける。
目の前に頬を少し赤く染めたユウがいた。
「おはよう、真」
「……おはよう」
なんとなく、頬をさする。
すると、ユウの頬がさらに赤くなった。
「……」
少しだけ、気恥ずかしかった。




