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 相手が来る前にとんずら。

 千咲の選べる手段は、それだけだった。

 が。

「あ、よかった。まだ帰ってなかった」

 教室を出るやいなや、敵がそこで待ちかまえていたのだ。

「どうしたの? 幽霊でも見たようなリアクションして……」

「ちょ……待ち伏せしてたんですか!?」

「いやだなぁ、張り込みといってよ。ストーキングも不可ね」

 爽やかにそんなことを言い、雅史は廊下にすっこけたままだった千咲の手を取った。

「さ、帰ろう」

「や、ちょ……!」

 抗議の声を上げるよりも早く、彼女は手を引かれ校門へ向かっていた。

 手首をつかむ、彼の指。

 決して力は入っていない。

 なのに、ふりほどけない。

 千咲は困惑するばかりだった。



 たとえば、大きな水たまりが道のど真ん中にあったとする。

 雅史は、そんなときごく自然に、渡るための足場を作ってくれる。自分の上着を犠牲にするとか、一昔前にはやった方法ではなく、その辺から適当なものを持ってきて。

「そりゃファンも増殖するわよねぇ」

 購買のサンドイッチのゴミを片づけながら、秀美はしみじみとうなずいた。

「しかも、そういうのが気障に見えないのがすごいよね」

 無言を通してはいたものの、千咲も同感だった。強引に押し通され、ここ三日間登下校は一緒にしているのだが、それで心底実感した。

 大川雅史。

 彼は、本当にいい人なのだ。

 顔もよく、背も高く、勉強もよくでき、スポーツマン……ではないようだが、気配りがうまい。

 少女漫画に出てくる主役級キャラのような人物である。

 思わず溜息をついてしまう。あの手の漫画では、たいていヒロインはなんの取り柄もなく、顔も普通。なのに美形どもからもてまくるのだ。どういうわけか。小学生の頃は、千咲もそういう雑誌を読んでいたのだが、いつも不思議に思っていた。

 元気なだけでとりたてていいところのないヒロインより、美人で頭もいいライバルの女の子の方がいいだろうに、なぜ美形どもはそっちに見向きもしないのか、と。

 自分を取り巻く現状を少女漫画に当てはめると、なんの取り柄もないヒロインはこの自分。事実いいところがないのは当たっているし。

 では、ライバルは。

「……美人で頭もいいキャラねぇ……」

「は?」

 首をかしげる秀美を無視し、千咲は教室に視線を彷徨わせる。

 クラスで限定するとすれば、適当なのは一人。

 有栖川美優。家はお金持ち、いわゆる深窓の令嬢で、楚々とした儚げな立ち振る舞いと気品ある整った顔立ちに、男子だけでなく女子の中にも、彼女にあこがれる者は多いらしい。

 彼女なら、きっと雅史の隣りに相応しい。見ているだけで溜息が出る、似合いのカップルになるだろう。

 外野からの反感を封じられるほどに。

「大川先輩」

「ん?」

「有栖川さんにすればよかったのにね」

 物好きな人もいるものだと、千咲はほどよく冷めたお茶を飲んだ。


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