Chapter1-10 権能の正体
「ルーバスが昼間に姿を現すことはめったにありませんよ」
「そうなのか?」
「ええ。
恐らくこの塔のどこかにいるとは思うんですが。
実際にどこにいるかは私にもわかりません」
エマは首を横に振って言った。
「姿を見せるのは、だいたい夜になってからですね」
「ふうん…。
暗くなってからじゃないと出てこないなんて、本当に亡霊みたいだ」
「かもしれません。
彼自身、自分のことをそう言っていますから。
……あちらから用事があるときは、普通に出てきますけどね」
勝手な奴だなあ。
エマの言葉に返すように七波が言うと、またその言葉にエマも同意するように笑った。
「主様の権能について、ですね?」
そう尋ねるエマに、七波は頷いて応える。
「共鳴を強めろ、なんて言われてもな。
もう少し手がかりがほしいよ」
七波は言った。
その言葉に対しエマは有効な返し持ち合わせていなかった。
テーブルを挟み二人は首を傾げて唸り合う。
それからしばらく経って、ひとまず彼らはこの塔での共同生活に多くの時間を一緒に行動しようと決めた。
そう提案をしたのはエマの方である。
召喚されたばかりで勝手のわからぬ七波に仕えるのが自らの使命。
そういう理屈であった。
申し出は七波としてもありがたいものであったし、彼自身もまずはお互いのことをよく知るべきであると考えた。
◇
異世界にやって来てからの二日目は、大部分を塔での生活作業に費やすこととなった。
水や食糧の調達、塔周辺の環境調査、そして鍛錬である。
そう言った作業を経て結果から言えば、共同生活として一緒の時間を過ごすのは、七波の中に備わる権能を発現させるという狙いに対して正解のアプローチであった。
そう確信したのは、午後に行われたエマの鍛錬の間である。
塔の外でエマが日課の鍛錬をする間、しばらく七波はそれを眺めていた。
手持ちぶさたになった彼は前日の晩に初めて権能を発現させた時と同じことをやってみようと思い立ったのだ。
昨晩と同じグラスを用意し、瞑想を始める。
すると以前よりも僅かに強い揺れがグラスに現れた。
一日をエマと共に過ごすことによって共鳴が高まるという考え方が、的外れなものではないと改めて七波は考える。
それから彼は瞑想を繰り返しながら、前日と比べて権能の発現内容による差異が無いかを調べた。
そうしているうちに揺れの強さ以上の変化があったことに気付く。
というのも、揺れる物体が増えているのだ。
揺れたのは、水汲みに使った容器を始めとする七波がその日に触れていたものばかり。
どうやらグラスを揺らすだけの能力ではないらしい。
七波は自分の権能について少し安心する。
なんらかの念力のような力だろうか?
例えば、触れることなく物体を動かせる力。
七波は揺れを確認できた物体を並べて考える。
物体は、触れたことのあるものでも揺れるものと全く揺れないものがあった。
そこには何かの規則性があるのだろうと七波は推測する。
揺れた者はその日によく触っていたものばかり。
恐らく、一定以上意識や注意を向けたものに振動が発生するのではなかろうか。
七波は自らの権能を「振動させる力」と仮定し、そこから考える内に権能が発現するおおよその条件を見出だしつつあった。
一方で、それが具体的何のための振動なのか、それによって何ができるのかという問いの答えには未だたどり着けずにいる。
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