Chapter1-9 朝食の時間
「朝起きて、まだこの世界にいたことにほっとしたよ」
「え?」
朝食を取りながら七波が言う。
すると向かい側に座っていたエマが首を傾げた。
「もしかしたら全部俺が見ている夢かもって思ったんだ。
ほら、俺は急にこっちの世界に来ただろ?
だから急にまたどこか別の場所へ飛ばされてもおかしくはないかも、なんて」
「そ、それは困りま…! ──んぐっ…!」
エマは慌てて口を開くと、何か苦しそうな声を出した。
どうやら食べていたものを急に飲み込んでしまったようである。
胸元をどんどんと叩く。
どうにか窒息状態から脱すると、彼女は溜息をついた。
「い、今主様がいなくなっては困ります」
「俺もどこかへ行くようなつもりはないよ。
だから、その…あまり俺に気を遣わなくてもいいんだぞ?
七波はそう言ってテーブルの上を見回す。
そこにはテーブルを埋め尽くさんばかりに食事が並べられていた。
食事を差し出す行為とは、わかりやすいもてなしである。
けど、それにしたって多すぎだろう。
七波は少し前、この食堂に入った際まず最初にそう思った。
今並べられている料理はその支度も全てエマが一人で行ったものだ。
彼女に案内されて食堂へやって来た時、既に料理は出来上がっており、ならばせめて食器の用意だけでもと七波が申し出ると、それも遠慮されてしまった。
その頑なな様子はもはや遠慮というより拒否に近いもので。
彼女の中にはどうやら絶対的な主従の関係があるようだった。
おかげで七波はちっとも落ち着くことができずにいる。
エマはテーブルの上を見回して、それからまた七波の方を見る。
「もしかして…量が多すぎましたか?」
「普段からこれだけのものを食べているのか?」
「ええ、まあ……」
戸惑うように言うエマ。
不思議に思った七波が尋ねてみると、今テーブルに並べられている量は普段より「少し」多めに用意したくらいだという。
その証拠に、みるみるうちにテーブルの上の料理が無くなっていく。
「よ、よく食べるんだな……。
てっきり俺に気を遣ってたくさん用意してくれていたのかと」
「すみません……。
なかなかこれ以上の品数となると手が回らなくて」
「いや。十分過ぎるって。
次からは俺にも手伝わせてくれ」
「いえ! そんなわけには。
これも従者たる私の役目ですから」
エマは強く頷いて言う。
落ち着ける日はまだ遠そうだな、と七波は思った。
「そういえば、ルーバスはどこへ?」
七波は話題を変えようと、あの亡霊のことをエマに尋ねることにした。
今朝起きてから随分と塔の中を歩いたが、一度もその姿を見かけていなかったのだ。
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