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Chapter1-8 異世界生活二日目


 窓から差し込む日差しの中で七波は薄く意識を取り戻した。

 彼は眩しさを嫌い、光に背を向けるように寝返りを打つ。

 くるまった掛け布団の中で大きな欠伸が出た。


 気の抜けた声を漏らしながら、七波はゆっくりと目を開く。

 ぼやけた視界が徐々にはっきりとしていくにつれ、七波の頭には昨夜眠りに落ちるまでの出来事が思い出されていった。


 「……」


 しばらくの間思考停止していた彼は、それからすぐに飛び起きる。

 上半身を起こした姿勢で辺りを見回した。


 そこは、エマに案内された部屋のままであった。

 やはり今の自分にとってはこの場所こそが現実なのだろう。

 そんなことを改めて実感する。

 

 あの島国にいる人達は、どうなっただろうか。

 七波は元の世界から自分がいなくなった後の事を少し想像する。

 しばらく考えて、どうにもならないことだと自分に言い聞かせた。

 この世界で二日目を迎えることができたことに安堵しているのもまた事実であった。

 

 窓の外に目をやると、昨晩は見えなかった景色が広がっていた。

 周囲はたくさんの樹々に囲まれ、遠くには山脈が見える。


 電線もなく、自動車の音も聞こえてこない。

 この世界は何処もこういった様子なのだろうか?


 七波は窓から顔を戻し、部屋の中を見る。

 根付く前の部屋というのはどうにも落ち着かない。

 そういえば研修が始まったばかりの頃、下宿を初めて訪れた日もこんな具合だった。


 七波はそんなことを考えながら伸びをした。

 肩のあたりが小気味よい音を立て、七波は息をついた。


 ──って、いつまでもこうしてるわけにはいかないよな。


 意識がはっきりしてきたところで七波はベッドから降りる。


 これから自分が何をすべきか。

 それについては自分が何ができるか、によるのだろう。


 この身に備わっている権能とやらについてもっとよく調べなくては。

 そのためにもまずはエマに相談するのがいいだろう。


 彼女はどこにいるのだろう?

 七波は部屋の外へ歩きだした。

 

 ◇


 螺旋階段を通って塔の下の階層へと降りていく。

 途中いくつかの部屋があったが、どこにもエマの姿はなかった。


 ついに一番下の階まで辿り着く。

 七波はそのまま塔の外へと出てみることにした。


 日光の下に出ると、肌に暖かみを感じる。

 柔らかな風が七波の髪を揺らした。


 はたして今は一日のうちどれくらいの時間なのだろう?

 時計を持っていない七波には正確な時刻を把握する術はない。

 太陽の位置を見る限りまだ正午というわけではないようだが。


 空を見上げていると、どこからか動物の声がした。

 低く唸るような鳴き声。

 鳴き声の様子からは、それなりに大きな体躯の動物だとわかる。


 気になって七波が見に行くと、聞き覚えのある声がした。

 塔の裏手にあったのは厩舎のような建物。

 そこではエマが巨大な竜の世話をしているところであった。


 深紅の鱗をした竜。

 その姿を七波は覚えている。

 この塔まで七波とエマを運んできた竜に間違いないだろう。


 竜の方も七波に気付き、小さく鳴いてエマに報せるようなそぶりを見せる。


 「主様!」


 竜に促される方へ振り向いたエマは、七波を見つけると少し驚いた顔で言った。

 七波は右手を軽くあげてそれに応える。


 おはよう。

 七波がそう言うと、エマの方も笑顔でそれに返事をした。


 「うわ、こんなに大きかったのか!」


 厩舎に近づいた七波が竜を見上げて言った。

 荒々しい筋肉に包まれた、見上げるほどの体躯。

 頭から尻尾までを眺めれば、全長は十五メートルを優に超えているように見えた。


 「竜を見るのは、この世界に来たのが初めてですか?」


 七波の様子を見たエマが尋ねる。

 それに七波は頷いて答えた。


 「ああ。俺の世界にはいなかったから。

  ──なにか名前はついているのか?」


 「ええ。

  ヴェルと呼んであげてください」


 「ヴェル、か。

  ありがとう、ヴェル。昨日は助かったよ」


 七波がそう言うと、ヴェルは小さく喉を震わせた。

 言葉が通じているのかはわからないが、どこか誇らしげな様子であった。


 その後ヴェルは七波に興味を失ったのか、すぐに顔を逸らす。

 それから厩舎の中へ入ると地面にうずくまってしまった。


 「たった今朝食を終えたばかりで。

  おおかた眠くなってしまったのでしょう」


 エマはその様子を見て笑った。


 「彼女とはもうだいぶ長い付き合いになります。

  戦争が始まる前からの相棒です」


 「案外、大人しいんだな」


 「ああ。それは私の縁者だとわかっているからでしょう。

  初対面の相手なら近くに寄るまでにもう少し苦労があるはずです」


 「なるほど。

  賢い子というわけだ」


 縁者でなければどうなったのか。

 七波は昨晩の夜空を飛び回っていた竜達の様子を思い出して、それが答えだと結論付けた。


 エマは足下に転がっていたヴェルの世話に使った道具類を片付け始める。

 それから彼女はふう、とひとつ息をついた。


 「私達も食事にしましょう、主様」


 エマはそう言って七波を再び塔の中へと案内した。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

不定期更新ですが、次話は明日8月27日の午前2時ごろ更新予定です。

もし刺さる部分などありましたら、評価や感想などいただけると励みになります。


Twitterで報告などしています。

よろしければそちらも見てやってください。 /脳内企画@demiplannner

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