Chapter1-7 一日目の終わり
「ひとまず……主様の部屋へ案内しますね?」
ルーバスがどこかへと消えていった後。
最初に口を開いたのはエマの方だった。
「俺の部屋?」
「はい。
さすがに雑魚寝してもらうわけにもいきませんから」
エマはそう言って七波を廊下へ連れ出す。
どうやら魔法陣の部屋のある階から何層か降った部分を居住区画として使っているらしい。
案内されたのは綺麗に掃除された部屋であった。
入り口から少し離れたところに木製の丸テーブルが置かれており。
壁には空っぽの棚と、外を一望できる窓が取り付けられていた。
窓からは月明かりが射し込み、ちょうど部屋の奥にあるベッドが照らされている。
「──だいぶ昔、この塔には大勢の魔術師が暮らしていたそうで。
ここは彼らが使っていた部屋の一つを改造して用意したものです」
「へえ……。
俺がここを使ってもいいのか?」
「もちろんです。
そのために用意したのですから!」
エマが言う。
元の世界で暮らしていた部屋より綺麗じゃないか。
研修中の住まいとして用意された部屋の様子を思い浮かべながら七波はそんなことを思った。
満足そうな七波の様子を見てエマは安堵した様子である。
この日は彼女とはここでいったん別れることになった。
これからのことについてはまた明日。
何かあったら呼んでくれと、エマは自室へと戻っていった。
一人になり、七波は改めて部屋の中を見渡す。
棚やテーブルの表面に指を伸ばすと、その手触りからつい最近手入れをされたばかりということがわかる。
角に埃ひとつたまっていないことから、エマの丁寧な仕事がうかがえる。
彼女は几帳面な性格なのだろうか?
そんなことを考えているうちに、気が抜けたのか大きな欠伸が出た。
自分がひどく疲れていることを自覚した七波は、おぼつかない足取りでベッドへと向かい、着の身着のままそこに倒れ込む。
妙なことになったな、と七波は思った。
研修先の国で戦争に巻き込まれて。
ひとりでラジオをやり、ひとりで殺された。
自分の人生はそこで終わるはずだった。
それが何故か、こうして剣と魔法の世界に飛ばされて生きている。
初対面の相手に戦争を止めてくれと頼まれた。
そしてその力になりたいと思った。
七波は目を瞑って今日の出来事を振り返る。
このまま眠ったとして。
目が覚めたらどうなっているのだろう?
七波はエマのことを思い浮かべて、少しだけ不安になった。
しかし強まる眠気に抗い続けることもできず、思考は次第にまとまらなくなっていく。
それからすぐに七波は意識を失った。
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