Chapter1-4 DJと女騎士のつながり
「ルーバス!」
ばん、と大きな音を立てて扉が開く。
七波とエマの二人は塔の中のあの小部屋に戻ってきた。
突然の物音にルーバスはびくっと体を震わせる。
「驚かすでない……。
いったいなんじゃ?」
「ひとつ聞きたいことが。
異界から召喚された者で権能を与えられなかった者は?」
エマが単刀直入に言うと、ルーバスは事態を察したような顔をした。
それからふわふわと宙を漂い、積みあがった書物の上に座り込む。
「権能が発現しないなんてことは、わしの知る限りでは無いのう。
──正式な契約が果たされておる場合じゃがな」
「なっ……」
ルーバスの言葉にエマは押し黙る。
正式な契約? と傍らで話を聞いていた七波は首を傾げた。
「つまり、どういうことだ?」
「召喚術は成功半分、失敗半分といったところだったんじゃよ。
どういうわけか儀式は途中で制御がきかなくなってしまっての。
異界にいるお前さんを彼女は見失ってしまったというわけじゃ。
まあ、辛うじて受肉させるだけの繋がりは維持できたようじゃが……」
七波の問いにルーバスは答えた。
「まさか、俺があの草原にいたのは……」
七波はエマの方を見る。
エマは七波の予想を認めるように頷いた。
「ま、まあいいさ。
結果俺はこうしてこの塔の中にいるわけだ」
七波は深く追求するのをやめた。
今この場において掘り下げて話すことでもないと彼は思った。
「なあ、俺に権能とやらが備わっていないのは間違いないのか?」
七波はルーバスに再び尋ねる。
自分はただの人間で特別な力は何も無い。
このままではエマに手を貸すどころの話ではないではないか。
「間違いなんてあるもんかよ。
わしがこの目で確かに見たんじゃ」
「いやいや、もう一回見てみたら何か変わるかもしれないぜ?」
七波は諦めない。
一方ルーバスは困ったような顔。
「何度見たって同じ事よ。
ほれ、おぬしはこの通り──んん?」
ルーバスが顔を七波に向けてじっと観察をする。
すると彼は目を見開いておかしな声をあげた。
「んんんー?
なんじゃ、これ」
「ルーバス。
どうしたのだ?」
首を捻るルーバスの様子を見たエマが声をかける。
ルーバスは眉を顰めてエマの方を振り向き、それから代わって七波の方を見た。
「おぬしら、さっきよりも繋がりが強くなっておる」
「そ、それは本当か!?」
ぽつりと言ったルーバスの言葉にエマは声をあげた。
「待て待て待て待て。
こんなのは見たことが無いぞ。
何故今になってこやつの魔力が強まるんじゃ?
おぬしら、何かしたのか?」
「何かって…屋上で少し話をしたくらいじゃないか?」
七波が言った。
それを聞いたルーバスは顎に手を当てて思案するような顔をする。
「話を……。
ああ、なるほど、わかったぞ」
ややあってからルーバスは頷いた。
「恐らくおぬしらの屋上での会話……。
それによって二人の共鳴が強まったのじゃ。
不完全だった契約が補われ、魔力の繋がりも太くなったんじゃろう」
「よくわからないが、歓迎していいことなんだよな?
それで何かが変わるのか?」
七波がルーバスに尋ねる。
「おぬし、今なら権能が発現するやもしれん」
ルーバスは言った。
──それが良いことかはわからんがな。
彼はひとりごとのように付け足した。
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