折れた枝にも芽は萌える
初めて東京に来た時、空は曇っていた。
綺麗に着飾った人が通り抜ける街、東京。
その雑踏の一部になりたい。
ここの大学に通う気持ちをさらに固めた。
森田 真由は窓を開けた。東京の空気は汚い。それでも窓を開けてしまう。
どこから見る朝日も綺麗なのに、東京の朝日は業務的に東の方向からのぼり、定時で帰っていく。
箱庭のように照らされたコンクリートは、昔見た穴ぽこだらけの蟻の巣みたいで滑稽だ。
森田 真由。19才。
東京の大学を選んだ。
理由なんて簡単な物で、ただ単に、昔の恋を忘れられないなんて芋臭い物だった。その恋の相手は近所に住んでいて、いわゆる幼なじみというやつだった。だから、その好きな人が好きな人を見つけて付き合っていた事も知ってしまった。
そうじゃなくても、幼なじみの自分の元に、そう言った情報は届けられる。それを聞いて傷ついていることを誰も知ることはない。
真由はたくさんの友達がいる中、いつも孤独だった。
孤独を埋めてくれる唯一の存在すら、自分から繋がりを断ってしまった。
真由は不器用な恋をしていた。
その恋から逃げた自分は、いつの間にかここまで来てしまっていた。
どこか息ができる場所を見つけたかった。
かつて、好きな人の元で笑っていたように、また、ああやって声を上げて笑いたいのに、真由は今日も東京という街に似合った作った笑いしかできない。
「髪、またいつもの色でいいの?」
美容師の男の人が髪に櫛をいれる。この街は女の髪を、男がいじるのだ。
とても美容の事なんて、考えていないような頭の軽そうな男の人達に、真由は欠片も心が動いた事はない。
真由はいつも雑踏から探すのは、初恋の人と同じ顔なのだ。遠く離れた街で会うはずのない人。
追いかけて来るはずもない。真由とその人はただの幼なじみなのだ。
美容師の男が
「真由ちゃんってモテるでしょ?」
適当に相づちを打っていた真由は、
「うーん。まあね」
否定もしない。すると、
「ははっ、本人も否定しないって事はよっぽどだね」
この手の頭悪い会話は嫌いだ。髪を染めるのは時間がかかる。だからなんとなく会話を続けないといけないだろうか。
真由は今日も長い髪を茶色く染めた。生え際の黒い色を消したくて、染め続ける。
それはおしゃれでも、なんでもなくて、ただの意地だった。
『茶色、似合うな』
茶色の髪、好きだと思ったのに、そう言ってくれた人は黒髪の人を選んだのだ。真由はそれから、この髪に縛られてしまった。
綺麗だって言われたかった心に、自分は好きではない髪の色を似合うと言った。
始めから叶わなかった恋だった。
だから、その言葉を今だに信じ続けていることが、その恋と共に残り続けてる。
髪を切り終わった男が
「良かったら、今度ラインでいいから教えて」
真由は
「はは。気が向いたらね」
誰が教えるか。
真由は綺麗に染まった髪に指を入れながら、サラリと揺らした。
髪の長さも変わらない。いつもこれ以上にもこれ以下にもならない。美容師はそれを覚えて、いつものね。で、勝手にやってくれる。
真由は大学に通いながら、適当にあぶれない程度に仲良くして、ほどほどに勉強。
2ヶ月に1回美容室。
友達とは仲良くなりすぎないように都合よく遊ぶ。
そんなやり方がピッタリの東京の街。
人がたくさんいるのに、温度が低いように、それに真由も染まっていく。
倒れている人がいても、東京の交差点では無視するらしい。それで死んでもかまわないのだろう。そうした人の群れは、真由にとって気味の悪い物だった。
それが、受け入れられて、あっ、あたしも助けないな。そう思った時、東京の街に染まってく自分の汚さに気づく。
1人でくしゃっと前髪を握りながら、1LDKの一室。
この街に居場所を求めたのは、誰もいることすら気づかないからだと思った。
孤独……。
真由は高校の時、友達がいた時、心の中を話せない時も、本当の孤独ではなかった。こうしている自分を心配してくれる人ぐらいいた。
そしたら、真由は自分の侵してしまった過ちを思い出した。
昼休み、学食に向かってた真由を呼び止める男子が1人。話しぐらいした事がある。初めて会った印象はいい人。飾ったりしない優しい人で、それも好ましかったが、顔が良かったので、真由は嫌だった。モテているサッカー部のやつだった。
真由の好みから外れている。土臭さのない爽やかなイケメン。
真由は上部でかわいいと言われる事は嫌いだったから、こうした顔のいい人や、軽く告白されるのは嫌っていた。
その人は
「話し、いいかな?」
そう言われて、真由は
「告白する気なら、断るよ」
先に言った。友達には先に行ってもらったから、誰もこの会話は聞いてない。告白する人だけ知ってる辛辣な振り上戸だった。
それでも、男の子は笑って
「いいよ。なら、ちゃんと告白させて。」
田崎……と言った。下の名前は優。名前の通り優しそうな男だ。どこから沸いた自信だろう。
男は、
「人、来るね。少し二人になってもいい?」
そう言った。
誰もいない校舎裏、田崎は
「ありがとう。森田さん。他に好きな人がいるってわかっているのに、それでも、どうしても伝えたくて……」
真由はビックリした、真由が好きな人いるなんて、誰も知らない。誰にも言ってない。そんな態度とった事もないのに。……なのに田崎は
「幼なじみには……叶わないかな……」
そう困ったように言ったのだ。
真由は
「それ、なんで?あたしそんなにわかりやすい?」
腹が立った。そんな噂立てられても困る。
本当に好きな想いは隠していたい。
そしたら、田崎は
「わかりにくいね。俺は偶然気付いたけど、それじゃあみんな気づかないんじゃないかな」
等と言った。
真由はそれを聞いて、真由の想い人、山口 太郎には伝わっていないのだろうか……と思った。
真由は
「じゃあしゃべらないで。言ったら許さないから」
そう言ったら、田崎は
「俺が悪い奴だったら、黙っててほしかったら付き合ってとか言う所かな。言わないけどね。そうして付き合ってもしょうがないから……」
田崎は悲しそうな顔をした。そして、真剣な顔にもなって、
「それでも、好きになってもらいたいって思っています。付き合ってください」
そう言って頭を下げた。
真由は動揺してしまう。
振るっていったのに、そんなに頭下げられても困るのだ。
「やめてよ。頭上げて」
真由はそう言った。田崎は頭を下げたまま、
「もし……叶うなら、本当に数日でもいいから、時間をかけて考えてほしいんだ。俺に夢を見させてください」
こんな真摯に告白されたのは初めてだった。それで、どれだけ真面目に向き合うつもりなのかもわかった。その辺のチャラチャラした男と同じに扱っていい人ではないと思った。
真由は
「さっき言った通りになるかもしれないのに?」
それでも、ムダに夢を見させたくなかった。
田崎は顔をあげ、少し震えた唇で
「いいよ」
そう言った。
東京で大人になった真由は、夕暮れの風にあたり、窓を開けていた。あの時は若かった。
そんな男の弱さみたいな物を見るのは初めてだった。田崎はあの時、なけなしの勇気を奮って向き合っていたのだと言う事に気付いた。
真由は真剣に向き合う事を恥ずかしく思った。正直困ってもいた。
田崎の純粋さに当てられていた自分は、後悔する選択をしてしまう事になる。田崎が分かりにくいって言ったからだ。
大好きなタロウちゃんにわかってもらいたくて、少しだけ勇気を出した。
結果は惨敗で、欠片も望みがない事がわかっただけで、告白すらできなかった。
勝手に付き合えばって言う態度は傷付く物でもあった。
タロウちゃんが止めてくれればいいと思った。
『そんな奴と付き合うな。俺と付き合え』
そう言って欲しかった。
けど、欠片も愛していない女のために言ってくれるタロウちゃんではなかった。やめとけばくらい言ってくれたら少しの望みも夢に見る事ができたかもしれない。
終わった……
今までも、これからも……想っているだけの時間をかけても、埋まらない物を感じた。
だから、好きでもない田崎という男と付き合い始めたのだ。
田崎は、
「それでいいの?」
すべて知った上でそう言った。
真由には、この気持ちを抱えているのは無理だと思った。誰かに聞いて、知ってもらいたいと思っていた事も……
なので、田崎はそういった真由も受け入れられてくれた。
付き合い始めた二人。
友達のもっと親しい人のような二人。
田崎は最初の印象と同じく優しかった。真由のキツい言葉もやんわりと受け止め、優しい言葉で返してくれる。
それこそ、タロウちゃんの仕打ちを許せないと言った真由に
「不器用な人だね……。俺にはその人も嫌いになれないよ」
なぜ嫌いになれないのか意味はわからなかったけど、真由も許せなくても嫌いになんてなれなかった。その気持ちを言い当て、目に見える光に当てられたように、真由の心は軽くなった。
田崎は
「真由も……不器用だね」
そういった。田崎にとって、不器用に自爆した真由を憐れんでるようだった。
真由は田崎の前ではちゃんと泣けた。この優しさを好きになれるんじゃないかと思った。
高校の三年間、付き合い続けて気付いたのだ。
この人を好きになることはない……と。
真由は罪を犯したと思う。優しい人の心を踏みにじり、三年間を無駄に過ごさせた。
好きになるかもで夢を見続けた苦しみを、真由は知っている。好きにならない人を想う重さ。
その真由といて、どう思ったか、最後まで向かい合う事はなかった。
真由は大学を東京に決めた時、そこに田崎も置いてきてしまった。自然消滅という形で……
田崎もわかっていた。
卒業の日、彼は
「さよなら……真由」
彼は真由に背を向け、真由にそれ以上の言葉を求める事はなかった。
真由はゴールデンウィークも帰らなかった。向こうには置いておきたい思い出が多すぎる。
タロウちゃんも。そのタロウちゃんと付き合ってる友達も。田崎も。ごちゃごちゃとしたマイナスの物しかないのだ。
この東京にも居場所はあるようでない。向こうには、どこにもない。
家族が心配してる。連絡も寄越さないと文句ばっかり言われる。
髪の毛は伸びて、黒い所が出てくる。
また染めに行かないと行けない。
また美容院に行ったら、
「そろそろ、本当にラインのID教えて?」
そう美容師に言われた。こいつもしつこいな。
真由は
「店長に言うよー。ナンパしてくるって」
美容師はハハッと笑い、
「店長知ってるよ。俺が君好きって」
ここは、全体的にグズばっかり。美容院変えよ。
それでも、帰り際、その美容師は紙を一切れ差し出してきた。店の外出たら、コンビニのゴミ箱にぐしゃっと丸めて捨てた。
ゴールデンウィークを過ぎたら、親はうるさくて、お盆には帰って来いって言う。
ついでに同窓会やるから行けば。だって。うるさい。それが嫌だから帰らないんだってば。親の癖に疎いんだから。さっさと察してほっといて。
夏になる頃、おばあちゃんが体調崩したからって帰って来いって。……帰らない訳には行かない。
ゼミがあるって言ってさっさと帰ればいいか。
真由はカバンに服を積めた。
お盆の頃、帰省の人も多い中、電車に乗った。指定席が取れたから、良かったけど、乗り場は凄い人だ。自由席は一杯だろう。大きな荷物を抱えての移動は苦労する。
正月は帰らない。
駅からも、ローカル電車に乗り換える。なかなか着かない。着いたら着いたでさっさと帰りたい。
見慣れた青々とした木や山。こんなボコボコとした場所に住んでいたんだっけ?見慣れた街を見てそう思う。駅に着いたら
「やっ、元気?」
そこで、ニコッと笑ったのは、どこか垢抜けた優しい笑顔だった。
手を顔の近くで降っていて、変わらずのいい顔。だけど、髪だけ茶色くなったいた。
田崎がここにいる事よりも、自然消滅した事よりも先に
「え…なんで茶色?」
真由はそこを突っ込んでいた。田崎には似合ってない。優しげな田崎には、黒くて真面目が似合うのに。
田崎は恥ずかし気に、首の辺りをさすりながら
「格好いいって言ってくれる人もいるんだけど……」
やり過ぎたおしゃれに戸惑うかのようだ。
真由は
「似合わないよ。変」
言わないといけないのはこんな事じゃないのに。
田崎は
「そっか。けど、好きでやってるから」
その言葉で田崎にも違う時間が流れていた事を感じる。真由の言葉に逆らった事のなかった田崎。田崎には、格好いいと言ってくれる女でもいるのだろう。
田崎は
「おばさん、忙しいらしいからさ。迎え頼まれたんだ」
それを聞くと、真由は田崎の事を母に話しておかなかった事を後悔した。
真由は
「断ってくれて良かったのに」
なんてお人良し。田崎は笑って
「いいよ。暇だったし。さぁ、乗って」
そこに車があって、いつの間にか免許を取っていたらしい。何もかも変わっていく。
話すタイミングを失った言葉が後々詰まってくるけど、もはや口からは出せない。なのに田崎は
「真由は相変わらず変わらないね」
等と野山に続く道を車で走らせながらそう言った。
真由は
「変わらないって。変わったよ。田崎も茶色くなって、免許とって、だいぶ変わったよ」
そう言うと
「そうだね。変わらない物なんてないね」
いつもと変わらぬその穏やかな声。そして、横顔。その空気だけは変わらない。
田崎は
「あっ、怒るといけないから、先言っとくね。」
真由はドキっとする。
「なによ……」
何を言われても……。そう身構えていた真由に
「真由のおばあちゃん元気だって」
真由は
「はぁ?」
気が抜けてしまった。田崎は笑う。
「だからごめんね。だって」
それを、田崎に言付けるなんて……。うちの家族はどこまでもバカだ。田崎は
「さぁ、もうすぐ着くね。今度の同窓会にも来る?」
真由は
「いや、行かない」
かたくなだった。
田崎はやっぱりねって顔だけした。だから、真由は
「忙しいんだってば」
そう声を荒げた。田崎は
「そっか。まぁ、俺は真由に会えたからいいけど、真由の友達は寂しがってるよ」
真由には友達がたくさんいた。
その心の深い部分を語り合う事はなかったけど、友達だった。不思議な物で、この柔らかな声を聞いていると、息ができて、頭がちゃんと働く気がした。
田崎は
「大学生って大変だね。東京は怖い所だな。真由もそのうちそっちで家族作って暮らすようになるのかな」
笑って言った。そう、笑って言える田崎って人がわからなくて真由は
「田崎はそんな事言えるんだ」
思いの外、キツい言葉になる。真由は
「もう……別れたもんね。私達……」
そしたら、田崎は道の脇に車を止めた。
田崎は
「やっぱり別れたんだ」
そう言った。まだ付き合ってるつもりだったのだろうか。なら、卒業式のさよならは、どういう意味だった?
真由は
「そうだよ。こんなに連絡なかったら、わかるでしょ」
そう言ったら、
「わからないよ。東京の人はそれで伝わるかもしれなくても、俺も、山口も」
田崎はそう言った。山口はタロウちゃんの事だ。こんな所でタロウちゃんの名前が出るなんて……
真由は
「言わなくたってわかるでしょ。」
振られるだけだった真由も。振られる田崎も。
田崎は
「そうだね。今日は真由の口から、ちゃんと聞きたかったんだ。ちゃんと別れたんだって」
田崎はそう言って、また車を走らせた。
真由は黙り混む。一方的に悪いのは自分だ。そう思えてならなかった。
田崎は
「ありがとう。好きじゃないのにそばにいてくれて。俺と付き合ってくれて」
田崎はそう言った。
真由は首を振った。茶色の髪が揺れる。
「違う。あたしは悪いよ。ありがとうとか違う」
そしたら田崎は優しい微笑みを浮かべた。
「ううん。違うよ。真由は俺にとって、素敵な女の子だったよ。俺を……好きにならなかったけど。そんな俺のわがまま、付き合ってくれて」
違う。だってこっちが都合よく利用したのに。
田崎はどこか吹っ切れたように笑っていた
「苦しかったね。泣くほど苦しかったね。ごめんね。ごめんね真由……」
真由は泣いていた。自分でも知らないうちに
田崎のほほにも、笑いながら一筋の涙が伝う。
「だからいいんだ。幸せになっていいんだ。俺に夢を見させてくれてありがとう」
真由は本当にこの人を好きになれたら良かったのにと思った。なぜ優しい人を好きにならなかったのだろう。大切にしてくれる人を好きにならなかったんだろう。きっと、この人以上に大切にしてくれる人なんていないのに。
田崎は
「山口とうまくいかなくて良かったなんて思っててごめん。真由の幸せを……思ってやれなかった。いつも本当は自分の事ばかり考えてたんだ。ごめん。ごめんね。真由……」
田崎は謝り続けた。真由の涙が引くまで道の脇に車を止めてくれた。田崎は本当に優しい男だった。
そして家に着いた。
田崎は家に上がってけ。って言う母に、やんわりと、
「今日は帰ります。真由。また来れそうだったら同窓会で会おう」
そう言った。そして、帰っていった。
真由は同窓会には出なかった。止める家族も振り切って
「忙しいんだってば」
そう言った。
「あと、田崎と別れたから」
だから、もう苦しめないであげてほしい。
そして、帰りは母の車で駅に着いた真由は、その日のうちに帰っていった。
「髪、いつものね」
そしたら、美容師の男が、
「真由ちゃーん。ライン待ってたんだけどー」
ラインの番号握ったまま捨てた真由。
真由は
「あー。そうだね。あれなくしたから、教えとく」
そして、メモにさらさらと文字を書き留めた。それを差し出す真由
「はい。どうぞ」
美容師の男はびっくりしたようだ。
「どうして?なんかあった?」
真由は
「うーん。色々」
美容師の男は
「そっか。女は色々あるか。じゃあ、期待しちゃって、送っちゃおうかな。」
そう言った。真由は
「誠治さんってどんな人なの?」
誠治は、この美容師の名前だ。真中 誠治。
誠治は
「東北なまりの冴えない美容師だよ。あっ、俺結構重いよ。結構優しくないって言われるし」
そうだろうな。真由はそう思った。好きな人の面影を抱いてここに来ていた真由。
誠治の事は好きになれそうな気がする。
飛び込む気もなかった。東京の街。
今は息ができる。
田崎と別れて、真由は大切にされた自分を大切にできると思ったのだ。居場所を作る事を拒んでいたのは自分だった。
過去の恋に傷付き続ける自分を、自分の手で終わらせる事ができた。それでもその先、最後、その未練を振り切って捨てるのは自分でしかできない。
田崎が髪を染めたのはきっと意味がある。
違う自分になりたかったのかもしれない。
そして、似合うといってくれてる人もいるって言ってた。
田崎は新しい恋と古い恋の間で苦しんでいたんだろうか。
それも、いい。
誠治は
「真由ちゃんにはショートも似合うと思うんだけどな。思い切ってカラーも変えてみる?」
いつもなら、しなかっただろう。けど、
「うん。じゃあまかせるね」
誠治は
「とびきり綺麗になるよー。シャープで大人な女性。真由ちゃんは俺の中でそんなイメージ」
こんな不器用な女に……
真由は
「まぁ、いいようにやっちゃって」
もうこの髪に未練もないから。
決着を付けられなくて逃げて来た真由。
自分が付けた傷を見る事ができなかった。
そう思っていたのに、田崎には違ったらしい。
愛したいと思いながら、好きだと言ってくれる人を愛する事ができない事に苦しんだ真由。
優しくしてくれる人に、想いを返せずに傷付けて行く事に苦しむ真由。
過去の苦しみから逃げた先に、自分を攻め続けてた真由の、それでも、引きずってきた過去の恋。
不器用でも強がる女。
不器用ゆえにうまく立ち回れない。
真由にはそんな強く見える弱さを描きたくて書いた人です。
このキャラも好みが別れるのではないかと思います。
好きや愛が思うように行かない。そんな物が根本にあるストーリーなので、複雑な人の心を書きたかったのだけど、難しいですね。
真由は美容師の、オシャレなような少し不器用な誠治とうまくいって幸せになります。
誠治は見た目と違って、本当は好きな人に誠実な重い男です。
それが真由にはいいのです。