第07話
いっそ堂々と、嫌味なくらいの笑顔で参上してやろう。
マネージャーにお願いして、あかりさんとサヤカさん、そして花梨さんが驚かないように、事前に私が行くことを伝えてもらった。
胸を張って、背筋を伸ばしてフロアを歩く。
「失礼します」
ソファでくつろぐ面々を見ないまま、にっこりと微笑んで挨拶をした。
「ヘルプのナツメちゃんです。よろしくお願いいたしますね」
花梨さんがさっと立ち上がり、私を紹介してくれる。
「こんばんは、ナツメです。よろしくお願いいたします!」
深々とお辞儀をし、顔を上げたついでにどこの誰がいるのかを素早く確認した。
(げっ、もはや課は関係ないかも。部の男性が入り乱れって感じ……!)
「わ、こりゃまた美人さんだねぇ」
「ささ、ここに座って!」
とっさに空いた席は、まさかの経理課の先輩の隣だった。
一番恐れていた事態かもしれない。
でも私は努めて明るく振る舞い、笑顔のままソファに腰をおろす。
「失礼しま~す」
普段そんなに親しく話さない人ではあったものの、バレないようにと考えると緊張してしまう。
積極的にグラスを持って、震える手をごまかす。
「お仕事、お疲れ様です」
左右に座っている人と軽くグラスを合わせ、簡単な挨拶を交わしながら、この現場がどういう状況なのかを観察した。
「ほんともう、こんな美人さんばっかりのお店にこれるなんて、俺、一生部長に着いていきますから!」
だいぶアルコールが回っているらしい先輩が、座ったまま、大げさに部長にお辞儀をする。
「いやいや、困ったな」
そして、まんざらでもない表情で照れ笑いをする部長。
こちらも顔を赤くして、かなりのハイペースでグラスを空にしている。
どうやら、部長が音頭をとって部の社員を引き連れてきたようだ。
(それにしてもーーー)
経理課の先輩に、広報課の後輩、庶務課の課長とよくスケジュールが合ったな、と感心してしまう顔ぶれ。
(小柳さんと来栖課長がいないことだけが、救いだわ)
会社の男性で、普段接することが多い人といえば、この2人しか思いつかない。
顔をまじまじ見合うような仲ではないけれど、いるといないとでは緊張感も危機感も違う。
私はリラックスを心がけて、男性たちの会話に相槌を打ったり、当たり障りのない質問をしたりした。
この時ほど、アルコールに感謝したことはない。




