第05話
あかりさんとサヤカさんは「気にしないで」と最後まで私を気遣って、フロアへと戻っていった。
(早く帰ったほうがいいって、わかってるんだけど……)
私はスタッフルームの出入り口に備えつけられた、丸い形の嵌め殺しの窓からそっと外を窺う。
この窓はマジックミラーになっていて、店内の状態を簡単にだけど眺めることができる。
目を見開き、私は窓にへばりつくようにして、フロアの様子を見守った。
やがて、ぞろぞろとスーツを着たサラリーマンの集団が案内されてくる。
(きっと、あの人たちだわ!)
何となく、見覚えがある雰囲気の人がいる。
でも、ここからでは距離がありすぎて、どれが誰なのかまではわからない。
(せめて声だけでも聞けたらいいのに)
いい加減、帰る準備をしないと、2人の厚意を無駄にしてしまうかもしれない。
私は後ろ髪を引かれる思いで、ドアから離れた。
「はぁ……」
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、着替えの準備を始める。
ドレスのファスナーを下ろそうと体勢を変えた時、スタッフルームの中で、一番大きな鏡に自分の姿が映っているのが見えた。
いつもより、かなり濃いメイク。
まとめた髪には部分ウィッグがつけられ、パッと見、別人のようなロングヘアーだ。
(……何とかならないかな?)
本当に、ここで帰ることはお店のためになるのだろうか?
私のためにはなるかもしれないけれど、お店のためにはならない気がする。
「私は何のためにここに来たの?」
鏡の中の自分に問いかけた。
「私は、何のためにここにいるの?」
この肌をキラキラと輝かせるラメは、御影さんが私に施してくれたもの。
この体を包むドレスは、あかりさんが用意してくれたもの。
そして、手首を彩るブレスレットは花梨さんが、「お古なんだけど、よかったら使って」と、私にプレゼントしてくれたものだった。
「あー、あ、あ、あー」
私は音を変えて声を出し、不自然にならない程度に、誤魔化せないか試みる。
「あー、ん、これならいける?」
喉の奥で話すように意識すると、普段より少し低い、落ち着いた声になった。
「お、いけそうかも! こんばんは、こんばんは~」
体の奥からピリピリした緊張感と不思議なやる気が、ふつふつと湧いてくるのを感じる。




