第04話
「ちょ、何? どうしたの?」
わかりやすく動揺した私の肩を、心配したサヤカさんがぎゅっとつかむ。
「……清水機器って、ナツメちゃんが昼間にお勤めしてる会社なのよ。しかも同じ部の方からのご予約なの」
衝撃的な宣言を受け、大ダメージを受けている私の代わりに、あかりさんが丁寧に状況を説明してくれる。
「い、一応、会社の許可はもらって、アルバイト、してますけど」
私は震える声で、その説明に補足を加えた。
(でもでもでも! 許可はもらったけど、アルバイトの内容は結構……いや、かなりふんわりぼかした気がする!)
まるで命乞いをするかのように、一心にあかりさんを見つめる。
“何も言わなくていい”というように、彼女は私の視線を受けて大きく頷いた。
「だからね、先方は花梨を指名されてるんだけど、ヘルプはサヤカちゃんに行ってもらおうと思って」
「そっか。同じ会社の人とクラブで顔合わせんのは、絶対気まずいもんね」
サヤカさんも私の動揺っぷりを理解し、納得してくれ、何度も頷いている。
「どうする、ナツメちゃん。今日はこのまま早退する?」
そこまであかりさんの好意に甘えていいものか。
お店を手伝いにやってきたのに、逆に迷惑をかけてしまうなんて。
私は自分がどうするべきか悩んだ。
でも、何よりもまずお店に迷惑をかけないことが第一だと思い、帰宅の意を伝える。
「お気遣いいただいて、本当にすみません!」
心からのお詫びの言葉とともに、深々と頭を下げる。
「同じ部でなければ、まだ大丈夫かなって思うんですけど、まさか……」
勤務先の人が会社の名前を使って、こういうお店を利用しているとは思ってもみなかった。
営業部ならまだ理解はできるけれど、まさか総務部が予約をお願いするとは……。
(さすがに経理課ではないと思うけど、それにしても、いったいどこの課が……)
広報課、人事課、庶務課―――。
今朝の総務部のフロア状況を思い出す。
銀座のクラブに会社の名前で予定を入れるなんて、少々、浮足立っても良さそうなイベントだ。
(みんな、いつも通りだったと思うんだけど……)
気にしないでと部屋を出ていく2人が扉を締め終えるまで、私は頭を下げ続けた。
可能性として、一番ありえそうなのは広報課。
小柳さんが所属している課だ。
(ほんの少しだけ……どこかからフロアの様子を窺えないかな)




