第03話
「さ、入って」
あかりさんに誘導されるまま、ドアをくぐる。
「よ、久しぶり!」
中に入ると、アルバイト初日に挨拶を交わしたヘルプのサヤカさんが、リラックスした雰囲気でソファに座ってくつろいでいた。
「……お久しぶり、です」
なぜ、ここに彼女がいるのだろう。
私はクエスチョンマークを頭に浮かべ、ぎこちなく返事をする。
今日のサヤカさんは、小麦色の肌によく似合うスカイブルーのドレスを身につけていた。
私はピンクやオレンジといった暖色系のドレスをよく勧められるので、グリーンやパープルが似合う彼女を、純粋にうらやましく思う。
その迫力のあるメリハリボディに目を奪われていると、
「ちょっと、見過ぎだし!」
カラッとした笑顔で突っ込まれてしまった。
サヤカさんは、アルデバランでは他にいないタイプの女性だ。
どちらかというと騒がしく、ノリが軽い。
落ち着いたお客様が多いこのお店では、異色と言えるかもしれない。
けれど、あかりさんが彼女をヘルプとして起用し続けるのは、ひとえにこの嫌みのない明るさなのではと思う。
「すみません……胸が大きくて、いいなって思っちゃって」
サヤカさんの前では、ついつい、考えていることがぽろっと口を出てしまう。
「これも商売道具だかんね。毎日それなりに、ちゃんとお手入れしてんの~」
表裏のないはっきりしたリアクションに、安心感を覚えるからだろうか。
サヤカさんと話しているだけで、元気をわけてもらえる気がするのだ。
「さ、ナツメちゃんも座ってちょうだい」
他愛もない話で盛り上がっていると、困った表情のあかりさんがこめかみを押さえながら、サヤカさんの向かいのソファに腰掛ける。
「はい」
「突然呼び出したりして、ごめんなさいね」
私はサヤカさんの隣に座り、これから何を言われるのか、わずかな緊張とともに次の言葉を待った。
「実はね……」
普段と様子が違うあかりさんの姿に、サヤカさんも神妙な面持ちになっている。
「今夜急に入ったご予約なんだけど」
そこまで口にして、はあっと大きくため息をつくあかりさん。
こめかみに当てていた手を、額に置き換えた。
「困ったことに」
そしてもう一度大きなため息をつくと、死亡宣告にも等しい内容を私とサヤカさんに伝える。
「―――清水機器の総務部さんなのよね」
「ふぐっ!」
真っ赤なルージュの隙間からこぼれた、聞き覚えのある社名に思わずのけぞった。




