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アフター5はメガネをはずして  作者: 皇ハレルヤ
歓迎できないお客様
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第02話

お客様のグラスの中を確認し、灰皿交換のタイミングを計る。

マニュアルやルールのある作業は、もとより得意だ。

会話に花を咲かせる2人の邪魔にならないよう、さっと手を伸ばして静かに仕事をこなす。

「ありがとう」

テーブルの管理はヘルプの仕事だ。

やって当たり前のことなのに、花梨さんはその都度お礼を言ってくれる。

(こういうところも、きちんとお客様は見ているんだわ)

なぜお店で彼女がナンバーワンなのか、今なら手に取るようにそれがわかった。

ハッとするように美しいスタイルの人、うっとりするような美声の持ち主、積極的にボディタッチをする人―――。

アプローチ法は人それぞれだったけれど、外見に勝るとも劣らず、内面の魅力がこの世界では物を言うことを、ひしひしと感じる。

さて、他にも何かすることはないかと、2人の会話に聞き耳を立てつつ仕事を探していたら、あかりさんが急ぎ足でこちらに向かってくるのが見えた。

「おや、あかりママじゃないか。何、また花梨の貸し出しかい?」

「本当にごめんなさいね。でも、今度はナツメちゃんを貸していただきたくって参りましたの」

アルバイトを始めてから、花梨さんは何度も他のテーブルへ呼び出しを受けていたけど、私が席を変わることは一度もなかった。

「あら、ナツメちゃんを?」

花梨さんも不思議そうに首を傾げている。

「そうなの、ちょっとね。本当にごめんなさい」

あかりさんは藤色の着物の合わせ目に手をやりつつ、たおやかな仕草で頭を下げた。

「いや、ママにお願いされたらね。困ったな。嫌とは言えないや」

「すみません、失礼します」

私はあかりさんに倣い、お客様と花梨さんに頭を下げて席を立った。

(一体、何が起きたんだろう……)

いそいそと急ぎ足のあかりさんは、どうやら、奥にあるスタッフルームに向かっているようだ。

きらびやかなフロアをかき分け、彼女の後を追う。

スタッフルームの扉を隠すように置かれている大きな花瓶には、紅白のバラとマツボックリが飾られていた。

(もう冬なのか……)

私がアルバイトを始めてから、店には2人、新しい女の子が増えたらしい。

勤務のタイミングが異なっているせいか、まだ挨拶を交わしたこともなかったけれど、花梨さんによると「ナツメちゃんと同じく、お昼はOLをしている女の子よ」だそうで、案外副業をしている人は世の中に多いのかもしれない。

地道な勧誘や知人の伝で、少しずつ人不足は解消しているとフロアマネージャーに聞いた。

あかりさん自身からも「もうそろそろ、麦ちゃんにお願いしなくても良くなると思う」と、この間聞かされたばかりなのに。

(また厄介なことが起きてなきゃいいけど……)

私は胸によぎる嫌な予感をすぐさま打ち消した。

(ダメダメ。こうやってすぐに悲観的に考える癖、これも直さなきゃ!)

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