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アフター5はメガネをはずして  作者: 皇ハレルヤ
歓迎できないお客様
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第01話

ほんの少しの勇気が大きな変化をもたらし、ほんの少しの行動が今までとは違う風を運んでくれる。

夜のアルバイトを始めて2カ月あまり。

私は少しずつ、緊張せずに接客ができるようになっていた。

「ナツメちゃんは、彼氏とかいるの?」

「いえ。残念ながら、いないんですよ」

「そうなの? 僕があと20歳若かったら、放っておかないのに」

今ではヘルプの先輩やメインのホステスがいなくても、お客様との会話が続く。

「本当ですか? お世辞でも嬉しいです」

「いやいや、お世辞じゃないよ。本気、本気」

最初はただただ、引きつった笑いしか浮かべることができなかった。

でも、それが許されたのは初日だけだった。

(あからさまにつまらなそうな顔をされて、泣きそうになった日もあったけど……)

「やだ。楽しそうにお話ししてる。私、邪魔かしら?」

悪戯っぽく微笑みながら、他のテーブルに行っていたお客様のお目当て、ナンバーワンホステスの花梨さんが帰ってくる。

「そんな! ずっと花梨さんのこと待っておられたんですよ」

「そうだよ。今日は他にも素敵な人がいるからって、忘れてもらっちゃ困るな」

当たり前だけど、私と話す時と、花梨さんと話す時のお客様の表情は、まるで違う。

どんな年齢の人も、どんな肩書きの人も、彼女の前では少年のようになった。

「でも、楽しそうでしたよ。私といるよりも」

そう言って、花梨さんはちょっと拗ねた表情でお客様を睨んだ。

コロコロ変わる表情は、同性であっても惹きつけられる。

(ホステスって、本当に瞬発力と度胸の世界だわ……)

お客様との信頼関係を参考に、どこまでなら言っても許されるか。

かわいいと思ってもらえるかを、瞬時に判断する。

(……普段の生活には、あまり使えないテクニックばかりだけど)

ちら、と盗み見た花梨さんは、さっきとは打って変わって聖母のように穏やかな表情だ。

女性として、異性の注目を集める仕草や、心をハッとさせるセリフ。

勉強しない日はないと言ってもいいくらい、ここは男女の駆け引きに満ちた場所だった。

週に一度だけだけど、アルデバランで働き始めてから、確実に自分の内面が変化しているのがわかる。

まず、動揺することが減った。

落ち着いて話せば、自分の考えていることの6割は確実に相手に伝わると自信がついた。

今までは緊張だけが先走って、言いたいことを言うことすらできなかった。

どんなことも、言葉を正しく選びさえすれば、相手に必ずわかってもらえることを知った。

(外見はわかりやすく変化したけど、中身も徐々に成長できているみたい)

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