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第16話

間髪入れず質問に答えた私を前に、先輩は一瞬目を白黒させたものの、

「やだ、ちょっと! どうしたの? 彼氏でもできたの?」

すぐに我を取り戻して話しかけてきてくれた。

「あ、いえ。そういうのでは、ないんですけど……」

先輩のひと声をきっかけに、フロアにもざわめきが戻る。

いつも通り仕事の準備を進める人、チラチラとこちらに視線だけを寄越す人、先輩と私の会話を、参加したそうに眺めている人……。

反応は当たり前だけど十人十色だった。

「前々から、整った顔立ちしてるとは思ってたのよ!」

私の肩をバシバシ叩きながら、先輩が嬉しそうに笑っている。

「背が高いからスタイルもいいし。あ、ねぇ、メガネは? コンタクトに変えたの?」

「あ、はい。そんな感じです……」

矢継ぎ早に繰り出される質問を前に、実は伊達メガネでした、と真実を告白することは躊躇われた。

(さらに質問攻めがヒートアップしちゃいそうなんだもん……)

ざっくばらんに話しかけてくれることは嬉しいけど、さすがにこれ以上、注目の的になるのは恥ずかしい。

(動物園の動物にでもなった気分だわ)

「やっぱり若い子が可愛いと、フロアが華やいでいいわよね。堀田さん、絶対今の方がいいよ。本当に綺麗になった!」

先輩にとっては、ただのお世辞だったのかもしれない。

本当はそれほどもないけれど、本人を前にしているから何割か話を盛ってくれているのかもしれない。

「あ、ありがとうございます……!」

それでも、私にとっては掛け替えのない、何よりのひと言だった。

「良かった……」

ここは会社で、私は今から仕事を始めなければならないというのに、何だか涙ぐんでしまいそうなくらい、嬉しい。

「堀田さん……」

潤んだ目元をごまかすように、にっこりと微笑んだ。

それなりに職場では「対職場用の仮面」を作って、滅多なことでははずさないよう、守ってきたつもりだった。

それが今、ガラガラと音を立てて崩れ落ち、「素の堀田麦」が露わになっている。

それでも―――。

「褒めていただけて嬉しいです。ありがとうございます」

本来なら真っ先に感じるべき、恥ずかしさも居たたまれなさも、体中を満たす喜びを前にしては、煙と立ち消える。

私は努めて口角を上げ、フロアのみんなに「変わろうとしていること」をアピールしたのだった。

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