第15話
(私、意外と、結果を出せる子なのかも!)
自身の成長を実感して、嬉しさのあまりニコニコと笑っていたつもりが、はたから見ると「ニヤニヤ」もしくは「ニタニタ」だったらしい。
いつしか課長の視線が怪訝そうなそれに変わり、ようやくハッと我に返った。
「す、すみません、始業前に!」
慌てて椅子に座り、中途半端に放り出していた始業の準備を続ける。
(まだまだ、気を抜くと危険がいっぱいだわ)
うっかりすぎる自分に喝を入れ、気を引き締め直す。
「いや、堀田―――」
「おはようございますー」
「おはよう~」
課長が私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、続々と出社してきた経理課の面々にかき消されてしまった。
(きっと気のせいよね)
私は、自意識過剰ゆえの空耳だと思うことにしてそれ以上、深くは考えないことにする。
正直、今はそれどころではない。
私には果たすべき、重要な仕事がある。
緊張がむくむくと頭をもたげる中、椅子から立ち上がって、見慣れた同僚や先輩に朝の挨拶をした。
「おはっ、おはようございます!」
出だしから噛んだおかげで、却って勢いよく挨拶をすることができた。
最初に一度つまづいてしまえば、それ以上、大きな怪我をすることもないはずだ。
一体、どんな反応が返ってくるのだろうか。
過剰に期待してはいけない。
でも、どんな意見や感想を言われるのか、純粋に気になるのも確か。
何を言われても一定のテンションを保って、心の揺れを悟られないように返事をしよう―――。
そう心に決めたというのに。
(だ、誰か……! 早く何か言って……!)
みんなに聞こえるよう大きな声で挨拶をしたはずが、フロアはシーンと静まり返ったまま。
目だけを動かして周囲を窺うと、みんながみんなキョトンとした表情を浮かべていて、私の挨拶にどう反応をしていいのか図りかねている様子だった。
(これは……どういう意味合いでの沈黙なの?)
背中に嫌な汗が流れそうな、そんな微妙な空気の中、
「ほ、堀田さん、だよね……?」
おずおずと話しかけてきてくれたのは、新入社員教育で私の教育係になってくれた先輩女子社員。
先輩は先ほどから何度も、私の顔を見ては私のデスクを見、私の髪型を見ては、私の制服についた名札を見……を繰り返している。
「は、はい! 堀田です!」




