第10話
(だからこそ、男性はクラっときちゃうんだろうな)
こんな日常の些細なやりとりの中にも、学ぶべきところがたくさんある。
「可愛いわ~! やっぱり私の目に狂いはなかったわね!」
そして360度、満足するまで私をあちこちから眺めたあと、手にした紙袋を満面の笑みで差し出した。
「アイドルを育てるプロデューサーって、こんな気分なのかしら?」
「あかりさん? こ、これは……」
半ば押し付けられるかたちで紙袋を受け取る。
恐る恐る中を覗くと、秋冬物の洋服がギッシリ詰まっていた。
「麦ちゃんに受け取ってほしいの」
よくよく包み紙を確認すると、今朝買った雑誌で見かけたばかりのブランドのものだ。
ざっと見ても、7~8着以上はありそうなボリューム。
数万円はくだらないだろう。
「えっ、でも、こんな高価な物……!」
このまま何も気づいていないふりをして、「喜んで!」なんで受け取ることはできない。
「お金払います!」
そう言って、個室の入り口に備え付けられたクローゼットに向かう。
「いいのよ、いいの! これ、ほとんどタダ同然みたいなものだから!」
慌てふためく私をなだめるように、あかりさんがにっこりと微笑んだ。
「た、タダ?」
若い子に人気の、今をときめくブランド品がタダなんてありえない。
(私に気を使わせないよう、きっと嘘をついてくれているんだわ)
無理なアルバイトのお願いを引き受けたけれど、それはそれできちんとお給料がもらえる仕事だ。
それに加えていろいろといただいてしまっては、あかりさんにとってはマイナスもはなはだしい。
手伝いに行っている意味がなくなってしまう。
「知り合いがね、ここのブランドに勤めてるのよ。これはサンプル品とかB級品って呼ばれる物で、基本的には流通しない物なのね」
「サンプル品……」
「そうなの。キズがあったり、タグがなかったりで、売れないまま廃棄処分されることが多いみたいなんだけど」
でも、シワなく綺麗にたたまれた洋服は、十分基準に達しているようにしか見えない。
「社員の家族に配ったり、格安で関係者に譲ったりもするのね。でも、私が着るには若すぎるでしょう? 麦ちゃんにぴったりだと思うのよ」
「確かに、あかりさんが着るともう厳しいよね」
そう言って同意する御影さんに、「もう!」と彼女は肘鉄を入れた。
嬉しそうな様子のあかりさんと、微笑ましげに私達を見つめる御影さんを前にして、これ以上拒否することはできない。
至れり尽くせりで恐縮しきりだけど、ここはありがたく受け取るのが正解のようだ。
「ありがとう、ございます……!」




