表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/65

第06話

髪を切ること自体に異論はないけれど、財布にお金は入っていたかなと、急に不安になる。

タルトの最後のひと切れを口に運び終えた私は、メールを打つあかりさんに「ちょっとお手洗いに……」と断り、化粧室へ急いだ。

そして、鍵を閉めた個室で財布の中を確認する。

「……一万、五千円」

美容院へは、半年に一度行くか行かないか。

前髪がメガネにかかるほど伸びたら、自分で簡単に切る程度だ。

予想外に訪れた大きな出費。

果たして、財布の金額だけで対応できるだろうか。

(ピンチになったら、恥を忍んであかりさんにお金を借りよう)

ふうっと控えめなため息をついてから、個室を出る。

これから一体どんな展開が私を待ち受けているのだろう、と期待半分怯え半分で席に戻った。

「すみません、お待たせして……」

私の顔を見るなり、弾けんばかりの笑顔であかりさんが立ち上がる。

「じゃあ、行きましょうか!」

本当に昨日、彼女は深夜まで働いていたのだろうか。

カフェを出てから歩くこと十数分。

疲労感が一切滲んでいないパワフルさで、迷うことなく私を先導する。

さくさく前を歩く後ろ姿を追うだけで精一杯だった。

そして、あれよあれよいう間にと連れてこられたのは、同じく銀座に位置するヘアサロン。

「こ、ここ、ここですか……?」

選ばれた人しか、入店してはいけないオーラをひしひしと感じる。

店の前を素通りするだけでも早足になりそうな、スタイリッシュでおしゃれな外装。

「そうよ。さ、入って!」

店内からガラス越しに、私達に気づいたらしいスタッフがさっとドアを開けた。

カラコロと小気味良いドアチャイムが鳴り、いらっしゃいませの大合唱に体が包まれる。

「奥にお席をご用意しております」

私と同じ年くらいの女性が、親しみをもった笑顔で告げた。

「そう、ありがとう」

あかりさんは堂々とした様子で奥へ進んでいく。

曖昧に会釈を返す私とは大違いだ。 

それにしても、美容院の中に個室があるとはどういうことだろう。

これはいわゆる、VIPルームというやつだろうか。

白と黒とを基調にしたシンプルな内装に、観葉植物の緑が良く映える。

ヘアサロンというよりも、まるで硬派なデザイン事務所のような趣だ。

決して長くはない距離の中、頭をフル回転して、これから起こりうるであろう出来事を入念にイメージする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ