第05話
「美味しいでしょう?」
にこやかに尋ねられ、何度も首を縦に降った。
彼女はこの瞬間、何を考えているんだろう?
爽やかに笑うあかりさんの表情からは、真意を読み取ることなどできない。
しばらく無言でタルトをつついていたが、いい加減、モヤモヤが爆発しそうだ。
「あ、あの……」
栗独特の香ばしさを濃いめの紅茶で喉の奥に流すと、私は意を決して、あかりさんの本心を尋ねることにした。
「今日は、私に何か用事がある……とかではないんですか?」
そして、恐る恐る彼女の反応を窺う。
私の質問を受け、あかりさんは一瞬驚きに目を見開いたけれど、すぐにくしゃっと相好を崩した。
「そうね……どうしようかな?」
そう言ってそのまま、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
一瞬で、穏やかだったカフェのムードが、秘密めいたものに変わった。
まるでここだけ、昨日の夜に時間も場所も巻き戻したかのようだ。
さすが、銀座のクラブを任された女性。
表情ひとつで、空気をガラッと変えてしまうなんて。
でも、私の心はそれどころではない。
「……あ、あの………」
(こんなに態度が急変するなんて……きっと良くない前触れだわ)
そんなつもりはなかったけれど、失礼なことを言ってしまったに違いない。
取り返しのつかないことをした、とオロオロしていると、
「そうね……麦ちゃん、良かったら今から髪を切りにいかない?」
「……え?」
あかりさんは、耳を疑うようなまさかの提案を囁いたのだった。
「そうと決まったら、早速準備ね!」
ポカンと固まったままの私が、見えているのかいないのか。
「急がなくてもいいから、食べちゃって!」
皿に残ったタルトを私に食べきるよう指示したかと思うやいなや、バッグからスマホを取り出し、いそいそとメールを打ち始める。
「あ、あの……」
状況が呑み込めず、あかりさんの動向をハラハラと見守っていたら、視線だけで食べる手を休めないよう促されてしまった。
(これから何が起きるんだろう……)
あかりさんが連絡を入れている先は、どうやら複数のようだ。




