表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/65

第04話

あかりさんが待ち合わせに指定した場所は、銀座駅ほど近くにある、老舗のコーヒーショップ。

店のドアを開いた瞬間、まず、出迎えてくれたのは香ばしいコーヒーの香りだった。

(なんていい香りなの!)

アンティークという言葉がぴったりな店内には、穏やかなクラシックが流れている。

扉の中に一歩足を踏み入れただけなのに、一瞬で外の喧騒を忘れてしまった。

(こんな雰囲気のカフェ、初めてかも……)

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

ぼーっとカフェの空気に酔っていると、黒いベストとカフェエプロンをした私と同い年くらいの、男性の店員が話しかけてくる。

「あ、いえ……待ち合わせ、です」

電話であかりさんは「お店で待っているから」と言っていた。

彼の肩越しに店内をチェックすると、奥の席に彼女の姿が見えた。

「あ、あの方と待ち合わせなんです」

「……かしこまりました。後でメニューをお持ちしますので、こちらへどうぞ」

別世界で働く人は、立ち居振る舞いも別世界のように美しく、そして親切だ。

(私がお客様で彼が店員だから、ってだけの話なんだけど)

やっぱり、同年齢の異性と話すのが一番緊張する。

コンビニでも、男性の店員がいるレジは避けるくらい苦手だ。

「麦ちゃん! 突然呼び出しちゃったりしてごめんなさいね」

休日のあかりさんは、意外にもノーメイクだった。

でも、それを手抜きと感じさせないのは、やはり普段の手入れの賜物だろう。

「大丈夫? 迷子にならなかった?」

「はい、近かったので」

ざっくりとしたニットから覗く肌が色っぽい。

女性の私ですら、思わず視線を泳がせる勢いだった。

「今日は何でも好きなものを食べてね。私におごらせて」

「あ、ありがとうございます!」

店員からメニューを受け取りながら、あかりさんにお礼を言う。

顔では笑顔を作っていたけれど、内心ずっとヒヤヒヤしていた。

(一体、何の用事なんだろう~!?)

今から私は何を相談されてしまうのか。

理由もなく、呼び出したりなんてしないはず。

オーダーが終わってひと息ついてからも、ニコニコ微笑んでいるだけのあかりさんに、無意識に蒔いていた不安の種が一気に発芽した。

(ひょっとして、ちょっと言いづらいことなのかもしれない)

一番のおすすめと、あかりさんに勧められた季節のタルト。

さっくりとしたクッキー生地の上に、まろやかなマロンクリームがこれでもかと敷き詰められている。

ところどころにツブツブした栗の食感が残っていて、歯ざわりも楽しい。

でも、そのクリームの甘さを味わう間も、嫌な予感ばかりが胸をよぎる。

(く……クビ、とかかな?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ