第03話
リップサービスで大げさに言ってくれているのだとしても、純粋に嬉しい。
心の中にじわっと暖かいものが広がる。
「その……少しはお役に立てていたなら、いいんですが……」
「もう! 少しどころか! 本当に助かったのよ、どうもありがとう」
「は、はい!」
こんな風に、相手の喜ぶことがサラッと言えるあかりさんを、羨ましく思う。
電話とはいえ直接お礼を言われたら、誰だって「次も頑張ろう」という気持ちになるはずだ。
(クラブのママって、きっと、ホステスさんのメンタルケアも考えなきゃいけないんだろうな……)
これも、銀座で培ってきたテクニックだろうか。
ただでさえ、悩み多き年頃の女性。
そんな女性達を何十人と束ねるのは、並大抵のことではないはずだろう。
「で、ね。ちょっと相談があるんだけど……」
そう言ったあかりさんの声は、先ほどよりもややトーンが低かった。
また、クラブ絡みの相談をされるのかと内心身構えていたら、拍子抜けするくらい、意外な言葉が鼓膜に届く。
「土日はお店がお休みだから、私、朝から暇を持て余してるの。麦ちゃんさえ良ければ、今から銀座に出てこれないかしら?」
「今から銀座……ですか?」
「そうなの。ケーキでもご馳走させて頂戴。16時くらいに、銀座駅近くのカフェで待ち合わせなんてどう?」
突然のお誘いに正直驚いたけど、どうせ昼寝をしかけていたくらい暇だったんだし、断る理由もないと、私は二つ返事であかりさんの提案を受け入れた。
「あ、はい! じゃあ16時くらいに。はい、じゃあこれから伺います!」
通話を無事に終え、私はほうっとため息をつく。
気づけば、いつの間にかベッドの上に正座してしまっていた。
手の中のスマホは、液晶画面が汗でうっすら汚れている。
(緊張しすぎて汗をかくなんて……)
昔は無邪気に、それこそ家族のように接していた人だけど、いかんせんブランクが長すぎる。
(でも今は、週一だけとはいえ雇用主だし……)
2人だけで会うのはまだ少し戸惑うけれど、もっともっとあかりさんのことが知りたいと思うのも事実だ。
見た目の美しさはもちろんだけど、細やかな所作や相手への気遣いなど、女性として是非参考にさせてほしい。
あかりさんと一緒にいれば、自然と女性としてステップアップできるような気がする。




