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第01話

自分を磨く。

ぼんやりと内容をイメージすることはできても、具体的に何をすればいいのか。

文字にすればたった5文字の言葉なのに、その意味を誰もが納得できるように説明することは難しい。

外見を磨きたいなら、ダイエット、ネイルサロン、エステ、ヨガ、美容院。

内面を磨きたいなら、英会話、フラワーアレンジメント、茶道、書道、読書会。

私は手当たり次第コンビニで買ったファッション雑誌をパラパラとめくりながら、掲載されているキーワードを、頭の中で整理していった。

でも、これらすべての習い事を、一気に始めるのはどう考えたって無理がある。

今まで自分磨きをサボりにサボってきたツケだ。

「はあ……」

週末の初アルバイトを終え、帰宅できたのは午前0時をすっかり回った頃。

玄関の明かりとリビングの明かりが、まだついていることが外からもわかって、母がまだ起きていることが見て取れた。

(まぁ、起きて待ってるかなとは想像していたけど……)

「ただいまー……」

私は近所迷惑にならないように静かに玄関のドアを開け、控えめに声をかけた。

「おかえりなさい!」

鍵を閉めて振り返るなり、期待を隠しきれない母が私を出迎えた。

今か今かと私の帰りを待ちわびていたらしい。

さすがにもう店じまいの時間だ。

母は営業用のメイクを落として部屋着に着替えてはいたけれど、入浴は「麦ちゃんと入れ違いになったら困る」とのことで我慢して、私の帰りを待っていたそうだ。

母は私の顔を見るなり、

「まぁ!」

と驚きの声をあげ、泣き笑いのような何とも言えない表情を浮かべた後、感極まった様子で何度も頷いた。

(見た目って、人にすごい影響を与えるんだな……)

23年間、一番近くで私を見てきた人だからこそ、あれほどまで衝撃を受けたのかもしれないけれど。

私は昨日の夜(正確には今日の朝だけど)の母の姿を思い出し、これは早急に外見改造に取り組まねば……と心に誓った。

やっと「どうせ」のスパイラルから抜け出すため、現実と向き合えたんだ。

自分のルックスに自信がないのなら、自信がないなりに努力してカバーすればいい。

それこそ、毎日御影さんのような、プロのヘアメイクさんにお任せできれば最高なんだけど、さすがにそれではすぐに貯金が尽きてしまうだろう。

「まずはダイエットと、メイクの基礎勉強からかな……」

こんな時、おしゃれの手本になるような、いろいろと教えてくれるような、そんな親しい友人が1人もいないことが本当にツラい。

当たり障りなく生きてきたつもりだったけど、この年齢になって相談できる人がいないなんて、上辺だけの人間関係しか築けなかった何よりの証拠だ。

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