第16話
奥のロッカールームに入るなり、私ははあっと大きくため息をついた。
「正解が、わかんない……」
基本的な接客マナーはあるものの、あとは完全に個人の裁量。
いくら本やネットでノウハウを調べても、実戦で役立つかは実際その場に立たないとわからない。
私はハンカチに包んでいた鍵を取り出すと、ヨロヨロとロッカーに向かう。
着替えを手に備え付けの椅子に座ると、まずピンヒールに手をかけた。
スタイルをより良く見せるためのヒールとドレスを脱ぐと、ドッと疲れが全身に押し寄せる。
生ぬるくなったシリコンのブラをはずし、着慣れた通勤服へ着替えた。
メイクが服につかないよう、細心の注意を払う。
「はぁ……」
当たり前のことだけど、毎日ローテーションで着ている手持ちの服や靴は、本当に体によく馴染む。
背筋をピンと伸ばさなくても平気だし、転ばないように気をつけて歩く必要重ない。
ドレスに着替えた時は一度も確認しなかった、全身鏡の前に立ち、私は自分の今の姿を改めて見つめ直した。
ゴージャスなハーフアップヘア。
髪型にふさわしい、隙のないバッチリメイク。
でも、着ている洋服は地味で、野暮ったくて、流行の「り」の字も感じられないもの……。
(今まで別に、自分のファッションに違和感を覚えたことも、変化を求めたこともなかったのに)
鏡に映った自分の姿を確かめるように、表面をそっとなぞる。
「……首から上だけ、まるで別世界」
元のリラックスできる自分に戻ったはずなのに、なぜか滑稽に思えてきて、プッと吹き出してしまった。
 




