第14話
年齢は30代前半だろうか。
華奢な体躯ながら、開いたドレスからこぼれそうな豊満な胸に、どうしても目がいってしまう。
「よ、よろしくお願いします!」
同性でもドギマギしてしまうんだから、私がもし男性だったら、目を合わせることすらできなかっただろう。
「初々しいところも、可愛いと思ってくれるおじさまばかりだから。そんなに緊張しないで。安心して大丈夫よ」
耳だけで恋に落ちてしまいそうな、女性らしい柔らかな声。
「は、はいっ!」
先ほどとは種類の違う緊張感を全身に巡らせつつ、私は花梨さんの言葉に頷いた。
そして、オープンまでのわずかな時間、今日来店予定のお客様の特徴や名前、趣味嗜好をレクチャーしてもらった。
「一気に覚えるのは難しいかもしれないけど、早く覚えれば覚えるほど、自分の身を助けると思って」
花梨さんのこの言葉が身に染みるように実感したのは、常連さんだというお客様を迎え、ひと通り自己紹介が終わった後だった。
お客様は花梨さんを目当てに、このお店へ来ているはず。
無作法に出しゃばるより努めて存在を消したほうがいいと、灰皿の交換やお酒のお代わりに集中しようとしていたのに、ちょいちょいマネージャーの黒服さんが花梨さんを呼びに来る。
彼女が席をはずしても、一緒にヘルプに入ってくれたサヤカさんが場を繋いでくれるけど、私だけ黙っているのは明らかにおかしい。
でも、名前、年齢、あかりさんとの関係など、あらかじめ質問されると予想していたやり取りが終わると、受け答えのボキャブラリーはもう尽きてしまった。
母のことをネタにすれば、ある程度お年を召したお客様になら、喜んでもらえるかもしれない。
けれど、自分が堀田幸の娘だということは、できれば誰にも告げたくなかった。
その方法を選ぶくらいなら、捨て鉢になって一発芸にでもチャレンジしたほうが、いくらかマシだ。
(……ああ、普段からもっと真面目に新聞とか、ビジネス雑誌とか、しっかり読んでおけばよかった)
この日、お店には私の他にも派遣で来たという新しいヘルプの女の子がいたけれど、ホステス経験者らしく隣のテーブルで話に花を咲かせている。
(どうしよう、私、本当に役立たずだ……!)
見た目だけ綺麗にしてもらったって、中身が残念なままじゃ使い物にならない。
心の中で激しく落ち込みながら、見た目だけでもと必死に笑顔を作る。




