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アフター5はメガネをはずして  作者: 皇ハレルヤ
革命が起きた日
33/65

第13話

体感的にはあっという間だったけれど、それから時間にして十数分の間、初対面の人への挨拶の決まり文句や、灰皿の換え方、タバコの火のつけ方まで、あかりさんが丁寧にホステスのマナーをレクチャーしてくれた。

「今日は、花梨かりんのヘルプについてもらおうと思っているの」

「花梨……さん」

「もうすぐ来るはずだから、ここで待っていてくれる?」

そう言ってあかりさんは、黒服のボーイさんとの打ち合わせに向かった。

お店が開店する午後8時まで、あとわずかしか時間がない。

会社の新人研修なら、いくらでも手元の手帳に大事なことを、メモすることができるのに。

たった今、教えてもらったばかりのことを、私は必死に脳内でなぞる。

(銀座のクラブは、お客様に夢を見てもらう場所……)

あかりさんは私に作法を教えてくれながら、何度もそう言った。

実際に日常生活では必要ない無駄な動き・余計なしぐさも、高級感を演出する上では重要な役割を果たしている。

(せっかく大枚はたいて銀座のお店でお酒を飲むのに、がっかりしたくなんてないもんね)

今日からアルバイトを始める超初心者が、いきなり諸先輩がたと同じようにやろうとしたって、ボロが出るに違いない。

どう考えたって、同じ土俵で戦うには無理がある。

(基本的な礼儀は、来客対応と変わらないはず……!)

私は母の小料理屋での接客態度を思い出す。

会話の際の目線の高さ、相手の意見に頷く仕草、見送る時の細々とした気遣い……。

(水商売って、本当にその名の通り“サービス業”だわ)

リラックスを心がけようとしても、どうしても緊張してしまう。

肩の力を抜くために、深呼吸を繰り返していると

「ナツメちゃん?」

女性の澄んだ声が、頭上から降ってきた。

「あ、はい!」

すくっと立ち上がり、顔をあげる。

目の前に立っていたのは、鮮やかな赤いロングドレスをまとった美しい女性だった。

少し母に似ているかもしれない。

昭和時代に人気を博した映画女優のような、目鼻立ちがはっきりとしていながら、優しい顔立ちをした人だった。

「花梨です。今日はよろしくね」

そう言って彼女が動くたび、花のような石鹸のような、なんとも言えない良い香りがする。

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