第12話
「この子、今日からヘルプに入ってくれる麦……、ナツメちゃん。朝礼の時に改めて紹介するわね」
あかりさんに背中をそっと押され、自己紹介するように促される。
「はじめまして、ナツメです。今日からお世話になります。どうぞ、よろしくお願いいたします!」
いつもの私なら、気後れして伝えたいことの1割もまともに話せなかっただろう。
でも、今はあかりさんと御影さんに、とびきりの魔法をかけてもらっている。
「今はまだ、作法も行儀も何ひとつわからない状態なんですが、先輩方にご迷惑をおかけしないよう、1日も早くお仕事を覚えたいと思っています。何卒、よろしくお願いいたします!」
そう言って、ペコッと頭を下げた。
(ちょ……ちょっと体育会系すぎたかも?)
頭を下げた状態のまま、周囲の反応を窺う。
「……まぁ」
ポンと頭上から降ってきた声に顔をあげると、3人並んだ美女のうち一番小柄な女性は、おっとりとした仕草で口に手を当て、
「す、すご……ま、真面目……!」
一番背が高い、スレンダーな美女はお腹を抱えて笑い、
「やる気満々じゃーん!」
小麦色の肌をした美女は、私に向けて「いいね!」と親指を立てた。
(……なんだろう、この、部活みたいなノリ)
描いていたイメージがガラガラと崩れていく。
妙齢の女性ばかりで形成された、小さな世界。
しかも、己の美貌と話術だけを武器に、のし上がっていく競争社会だ。
もっとギスギスしていて、隙あらば蹴落としにかかるような雰囲気だと思っていたのに。
「あ、私、めぐみです。お店では結構長いほうなの。わからないことは、裏でこっそり聞いてね」
「私は京子よ。昼間はあなたと同じように、普通の会社で普通にOLとして働いてるの」
「私はサヤカ!このお店ではまだ私も1年目だから、アナタと同じ新人枠だよ。今日からよろしく!」
簡単な自己紹介を交わす間にも、系統の違う美女たちがぞろぞろ出勤してくる。
「あとはみんなの支度が終わってからにしましょう。お客さんと同伴して出勤してくる子もいるから、全員と挨拶するまでには1ヶ月くらいかかっちゃうかな」
あかりさんのひと声をきっかけに、御影さんとホステスさんたちが奥の部屋へと移動する。
「それじゃ、最低限覚えておいてほしい簡単な作法から、教えていくわね」




