第11話
計算されつくしてメイクされたアイラインとマスカラが、私の長所を100%引き出してくれていた。
少なく見積もっても、普段より10倍は彫りが深くなっている顔立ち。
それなのにくどい印象がないのは、なぜなのか。
自分では絶対に選ばないであろう、赤いリップが違和感なく馴染んでいる。
素肌の上でキラキラと光る微粒子のラメが、メイク室の照明に反射して、とっても綺麗だった。
「あかりさーん、できたよー!」
まだ自分の身に何が起きたか、まだ完全に理解できないまま、彼に手を引かれて私はフロアへと連れていかれる。
「あら、早かったのね」
奥のソファで書類を眺めていたあかりさんが、私と御影さんの気配を察して、さっと顔をあげた。
「まぁ……!」
あかりさんの声をきっかけに、周囲の視線が私に集中するのがわかる。
カウンターの中で支度をしていた人、花の角度を直していた人、玄関のマットの位置を整えていた人……。
今この一瞬、私の心の中だけでうぬぼれて構わないのであれば、みんな、私の変わりように驚いてくれているのだと思いたい。
自分でもそう考えてしまうくらい、変身後の私は華やかな夜の蝶だった。
「あの、どうです……か?」
それとも、ただの自意識過剰だろうか。
おそるおそるあかりさんに感想を尋ねる。
(予想していたより、役に立ちそうならいいな……)
期待を込めて見つめると、驚きの表情が一瞬で破顔した。
「かわいい! 麦ちゃん、すんごくかわいいわ!」
あかりさんは360度、私の周りをぐるりと回って全方位から確認する。
「ドレスは、この色が一番似合うと思ったの。いいわね、ハーフアップも素敵よ。麦ちゃんの清楚な雰囲気にぴったりだわ!」
こうも手放しに称賛されると、喜びがこみ上げる。
(メイクってすごい、ドレスってすごい!)
私は自分にかけられた魔法の威力を、ひしひしと噛みしめた。
「若い時を思い出すわねぇ……」
今でも十分若く見えるのに、あかりさんがしみじみといった様子でつぶやく。
「ナツメちゃんは背中にニキビもシミもなかったから、顔以外は何もいじってません!」
「あら!」
「天然でここまで変わる子って、俺初めてかもしんない」
驚くあかりさんに、どこか誇らしげに御影さんが言う。
「そりゃそうよ! なんてったって、私の見立てですからね」
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で2人のやりとりを見ていたら、続々とホステスさんが出勤してきた。
「おはようございます」
「ママ、おはようございます!」
「おはようございまーす」
ほとんどの人がノーメイクか薄化粧だったけれど、それでもなかなかお目にかかれないレベルの美人であることが見てとれた。




