第10話
「よくさぁ、雑誌とかテレビとかで“自分が好きなものと、似合うものは違う”って……聞いたことない?」
「ある……かもしれません」
その人の好きなものが、その人に似合うわけではない。
バラエティ番組のファッションチェックや、変身企画のメイクレッスンなどで、あまりにも個性の自己主張が激しい人に対して、美容や服飾のプロ達がたしなめるため、よく使う言葉だ。
でも、その言葉が今の私に何の関係があるのだろう?
動揺のせいで、自然とまばたきが多くなる。
「でも、俺はさぁ、好きなものって絶対その人に似合うと思うんだよね」
「……え?」
御影さんはそう言うとにっこり微笑み、私の髪をくるくると器用にねじって、あっという間にハーフアップを結い上げた。
「あとは……クリップが見えないようにとめて……」
発言の真意を確かめたくなったけど、下手に動くと今までの工程を台無しにしてしまいそうだ。
私はじっと、彼の手が止まる時を待つ。
「はーい! お待たせしました、完成!」
「あ、ありがとうございます!」
自分の肩の上で、見事な巻き髪が揺れている。
「すごい……こんな髪型、初めてです!」
この短時間で、ここまで見事に仕上げてくれた彼のテクニックに、純粋に感動してしまう。
私は御影さんに質問があったことなどすっかり忘れ、ただただ自分の髪に起きた魔法に見惚れた。
「本当にすごいなぁ……私がこんな髪型になるなんて……!」
芸術的とも呼べる手さばきだった。
あかりさんが『若いけど腕は確かだから』と、太鼓判を押していたのもわかる。
「あ……すみません! なんか、はしゃいじゃって……」
(さっきまでうつむいたり、凹んだり、ネガティブオーラ満載だったのに)
ニコニコ微笑みながら私を見守る御影さんに、自分の情緒不安定っぷりを謝罪する。
「いやいや、いいよ。でも髪型だけじゃなく―――」
メイク用のケープをサッとはずし、体が鏡の正面を向くように、背後から御影さんが私の頭を支えた。
「ちゃんとメイクも見てほしいな」
否が応でも、鏡の中の自分と目が合う。
「!」
鏡に映っていたのは、ゴージャスでありながら清楚な雰囲気も併せ持った、正統派の美女だった。
上品なドレスの色のおかげもあるだろう。
プロの手でヘアメイクを施してもらったおかげもあるだろう。
でも、目の前でうろたえている女性が、自分自身だとはにわかに信じがたい。
「ね、変わったでしょ!」
「わ、わた、私……?」
7:3に分けられた前髪から覗く瞳はくっきりと大きく、特徴的でありながら、きつい印象は一切ない。




