第09話
「そ、そうなんですね……」
私はかろうじて返事をするものの、自分でもわかるほど、その声には緊張と動揺があふれている。
「ナツメちゃんは、普段のメイクも薄いし、私服もおとなしめだし」
きっと、御影さんに他意はない。
私を見て思った感想を、そのまま伝えてくれているだけのことだ。
(言外に、君には無理って言われているみたい……)
「あ、はい……なんか、すみません」
だからここでついつい謝ってしまうのは、私の考え方が卑屈なだけ。
自分自身に自信を持てない、私の性格がダメなだけ……。
毎度おなじみ、いつものネガティブスパイラルに、ずぶずぶとハマりそうになった時、背後からポンっと両肩をたたかれた。
「!?」
ケープの上からとはいえ、素肌に近い状態で異性に触れられると、思考がショートしそうになる。
「どうして謝るの? ナツメちゃんは、それがいいって思ってるんでしょ?」
一瞬、何を言われているのか意味がわからず、すがるように御影さんの顔を見上げた。
「自分がいいな、と思って、そのメイクやファッションを選んでるんでしょ?」
「……あ、はい」
そう言われて初めて、世の中の人たちは自分が「いい」と思った服やメイクを、好きに選んでいることに気づかされる。
「そう……ですよね。好きだから……」
今まで、私がメイクやファッションを選んできた基準は、何だったんだろう?
なるべく目立たないように。
なるべく“普通”であるように。
よくある服。よくある色。
よくあるデザイン。
人々の記憶に極力残らない、世の中にありふれたもの。
そんなことしか考えてこなかった気がする。
「私の好きって、なんなんだろう……」
思わずぽつっと心の声が出てしまい、慌てて御影さんに笑顔を向ける。
「わ、私、昔から目立つのが苦手で。だから、その、ぶ、無難なものが、好きなんです……」
愛想笑いを浮かべ、漂う気まずさをごまかしていると、準備が終わったらしいヘアアイロンを御影さんが構えた。
そして私の髪をひと房すくいあげ、流れるような手つきで巻きグセをつけていく。
しばらく、無言の時間が流れた。
(どうして、あんな変なこと言っちゃったんだろう)
たった数分前の自分の発言のせいで、こんなにも雰囲気が悪くなってしまうなんて。
きっと御影さんも、心の中で“変な子”と思っていることだろう。
「……好きなものと、似合うものは違うってよく言うじゃない?」
自責の念にかられてうつむいていると、御影さんが優しい声でささやいた。
「……え?」




