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アフター5はメガネをはずして  作者: 皇ハレルヤ
革命が起きた日
28/65

第08話

実際に化粧を始めたのは、就職活動を始めてから。

就活応援セミナーで、最低限のメイクルールを教わってからというもの、今も忠実にその工程を守っている。

それが私のメイクのすべてだった。

「うーん、綺麗なおでこだね!」

「!?」

初対面の人に、まさかおでこを褒められるなんて。

こんな時、どういう反応をすれば正解なのかわからず、ぎこちない愛想笑いを浮かべることしかできなかった。

(お世辞を真に受けてたら、後で恥をかくのは自分だわ……)

「じゃあ、まず簡単にクレンジングして、今のお化粧を落とすね。それから肌を整えていくから」

目を閉じていていいと言われたので、素直に閉じることにした。

カチャカチャとメイク道具のぶつかる音がして、御影さんが動くたび、フローラルな香りが広がる。

家族ではない異性に顔を触られるのは、生まれて初めてのことだ。 

そっと肌に乗った御影さんの指は、想像していたよりひんやりと冷たく、でも、しっかりと骨ばっていて、中性的な見た目だけどやっぱり男の人の手なのだと、私は反射的に体を固くしてしまう。

「ごめんね、冷たいからびっくりした?」

「あ、い、いえ……」

いつも通り、焦ってリアクションが大きくなりそうになったけれど、グッと堪える。

ここで変な動きをしたら、御影さんの手元が狂ってしまうだろう。

私はサスペンスドラマに死体役で出演する気持ちになって、呼吸すらも控えめを心がける。

御影さんは私をリラックスさせようと、いろいろ気を使ってくれるけれど、指示通りに動くだけで精一杯。

目元のメイクの時だけ、目線をあげたり半目になったりと瞼を開いたが、最後まで鏡の中の自分とは目を合わせず、メイクを終えてもらった。

「じゃあ、次はヘアセットね」

御影さんにそう言われて、私は視線を伏せたまま頷く。

そして、右へ左へ私の髪を引っ張るヘアブラシの動きを、どこか他人事のように見守っていた。

「ナツメちゃんの会社は、制服はないの?」

早く終われ、早く終われと心の中でそれだけを念じていたから、御影さんの問いかけに咄嗟に反応できなかった。

「え、あ……いいえ。制服、あります」

慌てるあまり、カタコトのような返事になってしまう。

簡単な日常会話すら、まともに受け答えができないなんて。

(いつもこんな調子だから、友達もできないし、彼氏だってできないんだわ)

自分のダメっぷりに、ほとほと嫌気がさす。

きっと変に思われたに違いない、と御影さんをの様子をこっそり窺った。

でも彼は、一向に意に介さない調子で、

「そう……でも、地味だね?」

私にぐっと顔を近づけ、瞳を覗き込んできた。

あまりの至近距離に、心臓が跳ねる。

「ここにも昼間はOLさん、夜だけホステスってバイトの子が多いけど」

一体御影さんは何について話しているんだと、心当たりの多さと距離の近さにドキマギしてしまい、相槌さえ打てない。

「制服がある会社に勤めている子は、私服だけは可愛くしたいって、結構派手な子ばっかりなのに」

そう言って、彼は不思議そうな表情を浮かべた。

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