第06話
「は……はあ……」
美容師という仕事柄、接客はお手の物に違いない。
どんな人ともソツなく話せる話術を身につけているだろうし、そうでなくても目鼻立ちがはっきりとした濃い目のイケメンだ。
さぞかし、女性から注目されることだろう。
(私とはまるで、住む世界が真逆の人だわ……)
こんなことでもなければ、話す機会すらなかったと思う。
人の人生は、どこでどんなアクシデントに見舞われるかわからないものだ、としみじみ噛みしめていると、通路から荷物を手にしたあかりさんが現れた。
「ごめんなさいね。お待たせしちゃって」
そう言って、私の目の前で持ってきた物をサッと広げる。
「これなんだけど、どうかしら?」
あかりさんが選んでくれた衣装は、ワンショルダーのピンクのミニドレス。
普段からノースリーブの服は避けているし、室内とはいえ肩を晒すのには抵抗を感じる。
しかも、こんなに丈が短いスカートだ。
人の目はもちろん気になるけど、自分自身も露出が気になって落ち着かない。
でも、お店が用意しているドレスの中で、これがもっとも露出度控えめのデザインらしい。
もっとも、お店ではボディラインがよくわかるドレスしか着ないのがルールだそうで、露出という言葉はあってないようなものだという。
また、スパンコールやビジューが散りばめられた豪華なロングドレスは、基本的にホステスさん専用。
ヘルプはあくまでもサポート役であり、ホステスさんより目立つドレスやアクセサリーは、つけないことがこのお店の決まりなんだそうだ。
さすがにその情報までは、事前にチェックしきれなかった。
「想像と違うから、がっかりしちゃった?」
私の機嫌を伺うように、あかりさんが尋ねる。
「いいい、いえ! 十分です! ありがとうございます!」
慌てて首を振る私を見て、ホッとしたようにあかりさんが微笑む。
(あかりさんにとって私は、お世話になった人の娘だもの。きっと、すごく気を使ってくれているんだわ……)
ベテランの彼女がいいと言っているんだから、このドレスで正解なんだろう。
初めてづくしのアルバイトだけど、ここまで配慮してもらえるなんて。
(頑張らなきゃ……!)
言われたことはすぐに覚えて、余計な心配をかけないように注意しなければと、私は心に誓う。
「この奥の部屋がメイク室になっているの。着替え終わったら、そちらに行ってくれるかしら?」
「は、はい」
振り返ると、いつの間にか御影さんの姿は消えていた。
手渡された柔らかなドレスをそっと胸に抱き、案内された部屋でおそるおそる着替えの準備を始める。
見ず知らずの場所で1人にされて、急激に不安が込み上げてきた。
でも、こんな序盤で泣き言をいっていたら、それこそお話にならない。
私だって、もう子どもじゃないんだ。
できることは全部自分でやらなきゃ、頼ってもらった意味がない。




