第04話
唯一の頼れる存在と通信できない状況に、私は途方にくれた気持ちでいっぱいになった。
じわっと目尻に涙まで浮かんでくる。
ここは一旦ビルの外に出たほうがいいと、踵を返した瞬間、
「いらっしゃ~い!」
朗らかな女性の声が、背後から響く。
「あ、あ、あ……」
すがるような気持ちで振り返ると、満面の笑みを浮かべたあかりさんが、そこにいた。
「よかったわ! お店まで迷子にならなかった? 会社のほうは大丈夫だった? さっき電話がなかったら、私のほうから駅まで迎えにいこうと思っていたのよ!」
矢継ぎ早に喋り掛けられて、出そうになっていた涙が瞬時に引っ込む。
「だい、大丈夫です……」
出迎えてくれた今日のあかりさんは、しっとりした和服美人だった。
グレーのようなブルーのような、絶妙な色合いの上品な着物に、シルバーの帯を締めている。
帯上げと帯締めの淡いピンクが全体のアクセントになっていて、ひと目で玄人とわかる着物姿だった。
「綺麗……」
思わず本音が口からこぼれる。
あかりさんは「うふふ」と妖艶に微笑むと、ぼーっと突っ立ったままの私の背中を押して、お店の中へと案内してくれた。
「わあ……!」
促されるまま進んだ店内は、ビルの外観とはまた違う、文字通り別世界だった。
広さは想像以上。カウンターもゆったりしていて、優に20人は座れそうだ。
天井からはまばゆいシャンデリアがいくつもぶら下がり、その真下には大きなグランドピアノが鎮座していた。
入り口とカウンターの脇には、大人2人でも抱えきれないほどの大きな花瓶が置かれ、それぞれ対になるように季節の花が生けられている。
絨毯の色はシックなブラウンだったけれど、革張りのソファはすべて真紅に統一されていて、高級感を演出しつつ妖しさも十分だった。
「いいお店でしょ」
そう言って、あかりさんが誇らしげに微笑む。
「お店の女の子はね、常時30人は揃うようにしているの。あとはボーイ……お酒を運ぶウェイター兼、お客様のご案内をするホテルのベルボーイみたいな男の子が、何人かいるわ」
「さ、30人も……」
一体、1人のお客さんに何人の女性がつくのだろうか。
「お客様につくタイミングは、逐一マネージャーが伝えるから、心配しないで」
「は、はい」
「で、ここがカウンター。お酒を作る場所ね。おつまみと簡単な軽食もメニューに載せているの」
事前に知識を仕入れたつもりでいたけど、聞くと見るとでは大違いだ。
独特の迫力に呑まれてしまう。
私はあかりさんの説明に頷くだけで必死だった。




