第12話
私は手伝えない理由を、思いつく限り羅列した。
「接客業もしたことないですし、何より副業で会社に迷惑はかけられませんし!」
正直なところ、会社で副業は禁止されていない。
人事に相談して許可がおりれば、本業に支障が出ない範囲でアルバイトは許可されている。
(堂々と嘘を吐くって、こんなに心苦しいことなの~!?)
目の前のあかりさんが、みるみる悲しそうな表情に変わっていくが、背に腹は変えられない。
「そそ、それに、私、美人じゃないですし! ホステスさんなんて、絶対無理です!」
いやいやいや、申し訳なさを感じている場合ではなかった。
今は我が身を守ることが先決だ。
「会社がダメって言っているなら、仕方ないわよね……」
あかりさんがガックリと肩を落とした。
(よ、よし! 何とか切り抜けた……!)
心の中で勝利の万歳三唱を行っていると、母がぽつりと不穏な言葉を呟く。
「……そういえば、麦ちゃんの会社、アルバイトはOKだったんじゃなかった?」
「―――っ!」
「えっ、そうなんですか?」
ジーザス。
そういえば母と一緒にこの間、我が社の経営陣を特集した、ドキュメンタリー番組を観たばかりだったっけ。
「上司さんが判子ついてくれたら、お仕事できるって言ってたわよねぇ」
ジトッとした視線で見られると、もうこの線から攻めることはできない。
私は慌てて論点を変えた。
「で、でも、夜のお仕事なんて完全に次の日に支障が出るじゃない! 無理だよ、無理!」
「金曜だけでいいの! この通り! お願いします!」
「そうよ、麦ちゃん。人助けだと思って!」
嘘を吐いてしまった罪悪感もあってか、用意していたはずの言い訳がすべて飛んでしまった。
頭が真っ白になり、「どうしよう」とパニック状態になる。
「ソフトドリンクで大丈夫! 終電には間に合うように時間も都合します! 人が揃うまでの、ほんのちょっとの期間でいいの!」
「麦ちゃん、ものは試しじゃない。銀座のお客さん、特にあかりちゃんのお店は常連さんばかりだから、変なお客様はいないわ。安心して」
「もちろん、お給料だってきちんと出すわ! 体験入店みたいな感じでもいいの!とにかく助けてほしいの!」
矢継ぎ早に説得されると、考えることを放棄した頭は「頷いちゃえば楽になるよ」なんて、恐ろしいことを思いつく。
「そうだわ。ねぇ麦ちゃん、メガネとってもらってもいい?」
「あっ!」
半ば放心状態でぼーっとしていると、さっとメガネを奪われてしまった。
「あら、これは……!」
あかりさんが、心底驚いた顔をしている。
その奥で、母が「でしょう?」と言わんばかりにドヤ顔をしていた。
「昔から可愛い顔立ちのお嬢さんだと思っていたけど……!」
そして、あかりさんの驚きの表情が、徐々に嬉々としたものに変わっていく。
そう、それはまるで、探し求めていたレアアイテムを見つけた、熱心なコレクターのような……。
「私に任せて! ドレスは全部お店側が用意するわ! ヘアメイクも専属の美容師をつけるから、全然心配いらないからね!」
「は、はあ……」
やること前提で話が進んでいるが、私自身も洗脳されてしまったのか、もはや頷くことしかできないでいる。




