第11話
私はほうじ茶をずずっとすする。
もう完全に冷め切ってしまっているけれど、まろやかな甘みがじわっと口いっぱいに広がった。
「クラブの運営も、大変なんですね……」
その美味しさにホッと気が緩んでしまい、思わずぽろっと心の声が漏れる。
「「あ」」
すると、2人の美女が声をそろえて、私をまじまじと見た。
「……え?」
あまりにも呑気な感想を述べたせいで、気を悪くしてしまったのかと焦ったが、どうやらそうではないらしい。
「麦ちゃん! 今お勤めはしているの? しているわよね。じゃあ、勤務している会社って、定時はどうなってるの?」
「あ、朝9時から夕方5時までですけど……?」
急に目を爛々と光らせ、あかりさんが食い気味に私に質問を浴びせ始めた。
「残業は?」
「年度末はちょっとありますけど。それでも1~2時間くらいかな?」
毎月やってくる締め日や給料日も忙しいけれど、私にはまだ関係ない業務なので、実質忙しいのは3月だけだった。
「そう! ねぇ、今何か、習い事はやってる?」
「やりたいと思ってるんですけど、なかなか……」
英会話に料理にヨガ。
1月に書き出した「今年やりたいリスト」の習い事候補達は、秋になったというのに、まだ1つも実現されていない。
「夜はいつも何時くらいに寝てるの?」
「だいたい……1時半までに寝れば、大丈夫な感じです。会社が近いから、いつも夜更かししちゃうんですよね……」
「そうなのね~! ねぇ、週末はお友達とお出かけだったり、彼氏とデートとかしてるの?」
いい加減私も、ここまで根ほり葉ほり聞かれれば、さすがに様子がおかしいことくらいわかる。
「……友達あんまりいませんし、彼氏もいませんから」
これは早々に話を切り上げて、さっさと2階へ退散した方がいい。
本能でそう察知した私は、あかりさんからそっと視線をはずし、2人に気づかれないように逃走する準備を始めた。
「あ、じゃあ私、ちょっと……」
そろそろと腰を上げ、不自然にならないよう席を立とうと試みる。
「麦ちゃん、週末だけお店を手伝ってくれないかな!?」
けれど、相手に先手を打たれてしまい、予想通りの展開にギクッと体がこわばった。
「……え?」
恐る恐る2人に視線をやると、期待に満ちたキラキラした眼差しで私を見ている。
(嫌な予感しかしない……!)
「て、手伝いですか?」
あかりさんが嬉しそうに、コクコクと頷いた。
「麦ちゃんは、お酒飲める?」
これはストレートに断るしかない。
「無理です、無理無理無理! 私、お酒が飲めないんです!」




