第7話 団長さん魔術棟を訪問する
城下町から帰ってきてから1週間がたったころのことだった。私はあの時から異常状態を回復するポーションに興味を持ち、アレンに作り方を教わり実際に作ってみているところである。特に今は麻痺の状態を治すパララシスポーションを作っている。初めてのポーション作りよりはだいぶマシな出来ばえとなった。完成したポーションに感激していたその時研究室の扉が勢いよく開いて、慌てた様子の魔術師が入ってくる。
「アオイ!大変だ!騎士団長様がお前のことを訪ねに来てるぞ!」
普段ほとんど来ることのない来客に私を含め周りも驚きを隠せない。しかも来客はなんと気高き騎士団長様だ。みんなは先日の件で私を怒りに来たのではないかと予測していた。
た 、確かにヒーローポジションを奪って騎士団長をヒロインポジにしちゃったけどまさか本当に怒りに来るとは思ってなかった。ルートヴィヒはグラウン公爵家の次男で騎士団長という高貴なお方だ。私の首を飛ばすことなど容易い。
「どどど、どうしよう?私、し、処刑されちゃう?」
動揺し過ぎて声がすごく震える。
「ま、ま、ま、まずは落ち着いて。」
アレンもすごく動揺してる。落ち着いてって言う前に君も落ち着こうな。
「どんな話をされるかわからないけど、これ以上失礼のないようにしてね。」
本当これ以上失礼のないようにしなくちゃ…。
研究室から応接室に行く途中私の脳内では天使と悪魔が口論してた。
悪魔アオイ「このまま、逃げちゃおうぜぇ。どうせ会っても殺されるだけだろ。逃げちまえ~、逃げちまえ~。」
天使アオイ「まだ、そうと決まったわけではないのに逃げるなんてよくないわ!怒らせてしまったのならしっかりと謝るべきよ。」
なんて悪魔と天使が口論している間に応接室についてしまった。
「騎士団長さま。アオイを連れて来ました。」
一緒に来た魔術師が扉をノックして言う。
うぅぅ。心の準備がまだなのに…。仕方ないここまで来たら腹をくくるしかない。
扉が開き、案内してくれた魔術師さんが帰ったあと私はすかさず謝罪をする。
「先日は大変無礼なことをしてしまい申し訳ございませんでした!だから、どうかどうか命までは…。」
私は直角90度のお辞儀をした。というか怖くて顔を開けられない。
「え?命?」
不思議そうな顔をするルートヴィヒ。
「だって、私を不敬罪で処罰しに来たのでは…?」
私は恐る恐る顔を上げながら言った。
「ふはは。君はそれで怯えていたのか。」
お腹を抱えて笑うルートヴィヒ。
「違う、違う。むしろ逆だ。お礼をしに来たんだよ。」
そう言うルートヴィヒの表情はとても穏やかでなぜか安心した。
「何だ~。良かった~。心配して損した。」
安心して力の抜けた私はルートヴィヒの向かい側のソファーに寄り掛かった。そんな私を見てルートヴィヒはまた笑う。
私はソファーに座るよう促され、ルートヴィヒと向かいあった。
「まずは、自己紹介だね。前回は話す機会がなかったから。俺はこの国の騎士団長のルートヴィヒだ。君のことはここに来る前に聞いたよ。先日は助けてくれて感謝する。」
穏やかでな笑顔で言う。ルートヴィヒの笑顔はキラキラと輝く花が周りを飛んでるかのように見えた。
「私にはもったいないお言葉です。」
私はここにきて貴族への礼儀を覚えた。(覚えさせられた。)なので相手の言葉を否定せず尚且つ謙遜するこの返しがいいのではと考えた。
「そんな謙遜しなくてもいいよ。君は十分すごいことをしたのだから。それでだ。アオイ、君は何か欲しいものはないか?」
「欲しいもの…ですか?」
「ああ。お礼をさせて欲しい。して欲しいことでもいいよ。手に入りにくい薬草を手に入れて欲しいとかね。」
お礼…。この世界に来てやりたいことは大半やらせてもらった。もう十分なくらいだ。だから特に欲しいものなどは…あ!
「本当に…なんでもいいんですか…?」
「ああ。いいよ。」
ルートヴィヒの蒼く澄んだ瞳が私を見つめる。
「あのですね…頭を…頭を撫でて誉めて欲しいです!」
私は目を輝かせる。 本当は鍛えられた腹筋が見たいとか言いたかったんだけどそれこそ不敬罪で殺されそうなので諦めた。あの綺麗な逆三角形を生で見てみたかった。残念…。
だが、頭を撫でてもらうのもとても魅力的だ。お兄ちゃん気質のあるルートヴィヒに頭を撫でながら誉めてもらいたい!そんな欲望丸出しの私。
「え…!?頭を…!?」
ルートヴィヒは頬を赤らめ、手で口をおさえている。ものすごく困惑してるのが伝わってくる。
そりゃそうだよな。あったばかりのよくわからない女に頭撫でろとか言われたら不気味でしかないな。自分で頼んでおきながら大変申し訳ない。
「あ…!ごめんなさい。じょうだ…」
冗談ですと言おうとした時だった。
「よく頑張った。感謝する。」
そう言って男らしい大きな手が私の頭を撫でた。ルートヴィヒの頬はまだ赤く染まっていたけど、表情はすごく優しいものだった。
「自分で言っておいてあれですが、すごく照れちゃいますね。」
自分の顔がとても熱を持っているのがわかる。
その時
「失礼します。ルートヴィヒ様。」
アレンが入室してきたのです。この光景を見てアレンは一度何もなかったかのように扉を閉めた。そして数秒後もう一度扉が開き
「何の儀式です!? アオイは何をさせているんです!?」
アレンの勢いのあるツッコミが飛んでくる。
儀式って…そんな恐ろしいものに見えたのか…?
「え~と…。頭を撫でてもらってました。」
アレンは目を丸くする。
「アオイ!ルートヴィヒ様になんてことさせてるんですか!これ不敬罪ですよ!」
うぅ…。これならギリギリセーフだと思ったのにダメだったか。
私がアレンに怒られているとルートヴィヒはこのようなやり取りが面白かったのか笑いながら言う。
「大丈夫。これくらいで不敬罪とかにならないから。気にしなくていい。」
続けてこう言った。
「むしろ、先日のお礼がこんなものでいいのかこっちが申し訳ないくらいだ。」
蒼く澄んだ瞳はアレンと私を見る。
ルートヴィヒすごくいい人だ!心の広い人だ!とキラキラしながらルートヴィヒを見る私をアレンは呆れたように見る。
「この後、まだ用事が残っているから今日のところは失礼するよ。次また来た時に別のお礼を考えておいてくれ。」
そう微笑むとルートヴィヒはこの部屋をあとにした。
この後、もちろん私はこってり叱られた。
「今回はルートヴィヒ様が心の広い方で尚且つ婚約者がいなかったから良かったですが、他の人にこんなことしちゃダメですよ!」
最近アレンが本当、お母さん見たいになってる。自分のせいだって自覚はあるので心の中で謝っておこう。ごめんなさい。
「はい…。以後気をつけます。」
言われてみればそうだ。婚約者がいる相手にこんなこと頼んだらそれこそ殺されそう…。でも、あんなにかっこよくて身分も高い人にどうして婚約者がいないんだろう。周りが放っておくはずがないのにな。
――――王宮
「おお!ルート。こっちに来てたのか。」
王子レオンハルトは言う。
「ああ。レオンか。先日のことを国王報告しにな。」
ルートヴィヒは先日の城下町でのことを報告しに来ていた。
「あ。聞いたぞ。魔術棟へ女性に会いに行ったと聞いた。ついにお前も嫁をもらう気になったのか。その女性はどんな人だ?」
レオンハルトは楽しそうに話す。
「嫁にもらう予定はまだないよ。ただ見てて面白い子だなとは思った。」
今日の出来事を思いだし笑う。
「そうか。お前が楽しそうで良かった。」
女性の影が全くない年上の幼馴染にいい縁があったのだなとレオンハルトは心の中で嬉しく思うのでした。
この出会いがルートヴィヒの人生に大きく影響を与えることをこの時のルートヴィヒはまだ知らなかった。そして運命の歯車が少しずつ動き出そうとしていたことにも…。
今回はルートヴィヒの本格的な登場の話でした。
あまりストーリーに関係ありませんが、ルートヴィヒは団長として責務を果たしている時や社交界では一人称が「私」ですが気のおけない人の前だと「俺」になります。
ギリギリ昨日投稿出来ず申し訳ありません。