第5話 初めての城下町 前編
「ふふぅ~ん♪」
「アオイは楽しそうですね。」
楽しく鼻歌を歌う私にアレンは優しい眼差しで見る。
「そりゃあ嬉しくて仕方ないからね♪ここに来てだいぶたつのに魔術棟の外に出たことなかったから。城下町に行けるの楽しみで。」
そう!そうなのです!私たちはこれからポーションなどを売るお店に作ったポーションを届けに行くために城下町へ向かっているのです! ここに来てから外に出たことのない私にとって城下町は魅力的だった。私はこの依頼が来た時、是が非でも行きたくて無理を言って連れてきてもらった。いや~、前回もそうだがアレンが押しに弱いことがよくわかった。アレン困らせてごめんね。反省はしてるよー(棒)。たぶん。
「そろそろ見えて来ますよ。」
そう言ってアレンは馬車の窓を指差す。覗いてみると、そこは中世ヨーロッパのような街並みが見えてきた。
「うわ~。すごい。リアルにこういう風景初めてみた。」
レンガ作りの家や石畳。木を基調とした日本の古代建築とは正反対の石の文化の街並みだった。まるでタイムスリップした気分だった。いや、ここ異世界だけどね。タイムスリップ並みにすごいことしてるけどね。
「アオイ着きましたよ。」
そう言われ着いた場所は、こじんまりとしたお店だった。
「ここは?」
私はアレンに訪ねてみた。
「入ればわかりますよ。扉を開けてみてください。」
まるでいたずらを仕掛ける子供のような笑顔で言う。
私にはなんでアレンがそんな楽しそうなのか理解できず、扉を開けてみる。すると、
「いらっしゃいませー♪」
と言う声と同時に謎のキラキラが飛び出してきた。
「うわぁぁ!?なんだこれぇぇ!?」
びっくりしてしりもちをついた私にアレンは堪えきれず声を出して笑った。
「あはは。やっぱりアオイは想像してた通り面白い反応をしてくれる。」
隣でずっと笑ってるアレン。そうか。さっきの笑顔はそういうことだったのか。貴様まさか最初からわかっていたな!と怒っていると、店の中の女性が話かけた。
「驚かせてごめんね。お店の来る人に楽しんでもらえるように毎回こういう風に出迎えていてね。因みにこれは光魔法の応用だよ。」
その人はいたずらっぽく笑う。この人絶対楽しんでいるな!まったく!
「店の入口で立ち話もなんだから中に入ってくれ。美味しい紅茶を用意したんだ。」
私たちは店の中に案内された。
店の中には木製のアンティークの椅子とテーブルがありそこに座るように勧められた。うわ~。レトロな感じでオシャレだな~。と座っているとさっきの女性が紅茶とクッキーを持ってきてくれた。
「今日仕入れたばかりの紅茶とクッキーだ。とても美味しいよ。食べてみてくれ。」
人気店によくあるようなとてもいい焼き色をしたクッキーだ。あまりに美味しそうなので一つ頂いてみた。
「はむ。ん?…か、辛いぃぃ!なにこれ!?チョー辛いけど!?」
クッキー見た目に反してすごく辛い。これ詐欺だよってレベルで辛い。
そんな慌ててる私をみて二人は笑う。
「ごめん。ごめん。」
そういいながらも全然笑い堪えられてないぞ!アレン!
「ふふふ。すまない。これロシアンルーレット式で一つだけ辛いんだけどまさか一番最初に引き当てるなんて…ふふふ。」
この人外見はすごく整っていて美人なのに、性格がひどい!私の好感度がだだ下がりだぁぁ!
「ああ。そうだ。自己紹介がまだだったね。私のはこの店の店主をしてるエリスだ。よろしく頼むよ。」
「エリスさんは店主としてはとても優秀なんですが、少々いたずら好きなんです。」
少々?少々なのかこれは?アレンこうなることをわかってて何も言わなかったでしょ!
「あ!えーと。エリスさん。こちらがアオイです。最近魔術棟に来た子です。」
アレンに言われて自分はまだ名乗っていないことに気がつく。
「あ、アオイです。よろしくお願いします。」
「よろしくアオイ。アレンも久しぶりだね。」
エリスさんはアレンの頭を撫でる。
「もう!エリスさんやめてください!僕もう小さな子供じゃありません!」
そう顔を真っ赤にして怒るアレンがこれまた可愛い。このやり取り微笑ましい。(温かい目)
「うわ!アオイなんて顔してるんですか!?気持ち悪いですよ!」
二人を眺めていた私に不気味なものを見たような顔でアレンが言う。気持ち悪いってなんだ!そんなひどい顔してないぞ!たぶん…。
「と言うか、二人は随分仲がいいんですね。」
「ああ。アレンを昔ここで預かってたことがあるからな。あのときはこんなに小さかったのに大きくなったな。」
エリスさんは人差し指と親指で10㎝くらいの隙間を作る。
「僕そんなに小さくないですよ!」
アレンは反論してみせた。だが、エリスさんは本当かなぁ?見たいないたずらっぽい顔をしている。本当に仲がいいんだなと微笑ましく思う反面、少し疎外感があるような気がした。
「そういえば、今日はポーションを届けに来てくれたんだよね。」
そう話題を変えたのはエリスさんだった。
「そうだ!そうでした!エリスさんがふざけるからすっかり忘れていました。」
いや、アレン君よ。本日の本題はそこだから忘れちゃダメだよ!
「ああ。そのポーションはそこに置いてくれ。」
エリスさんに指示され私とアレンは運び出したポーションを置く。
「これはまた随分とポーションを持ってきたね。」
「ああ…。これはアオイの特訓の成果と言うかなんと言うか…。」
アレンが言いにくそうに言う。
…。本当申し訳ない。特訓と言いつつ大量生産してしまいました。
「でも!性能には問題ないので安心してください!」
私は必死に訴える。
「大丈夫。わかってるよ。」
エリスさんは笑う。この時ばかりはエリスさんが女神に見えた。
商品棚にポーションを並べている時、ふとあることに気がつく。
「この色とりどりの液体って何ですか?」
普段作っている緑色のポーションと違ってピンクとか黄色などがある。
「ああ。それは異常状態の回復薬だ。」
エリスさんは答える。
「異常状態?」
「麻痺や毒などの異常状態を治すのさ。」
エリスさんはピンクの液体の入っているビンを棚から取り出す。
「例えばこれは麻痺状態を回復する薬。森には麻痺させるモンスターがたくさんいるからね。森に入る時は特に必需品だ。」
「へぇ~。すごいな。これだけ薬があれば不治の病とかなさそうですね。」
アレンとエリスさんは複雑そうな顔をする。
「魔法で作れる薬はね、外部から受けた傷しか治すことが出来ないんだ。例えば戦いの中で麻痺状態になり体が動かなくなったとする。そういう場合はこの薬で治すことができる。」
エリスさんはビンを軽く振って見せる。
「だが、何かの病気で体が麻痺した場合これでは治すことが出来ないんだ。だからこの世界にも不治の病はたくさんある。」
そして俯いていたアレンが顔を上げていう。
「だから、だから僕たちはそんな人たちを助けるために日々研究しているんです。」
そうか。だからポーションなどが存在するのに研究を続けていたのか。この世界の魔法は万能ではない。だからこそ魔術棟の魔術師たちは戦い続けるのか。病魔と言う魔物と。
「アレン!アレンたちって本当にすごいんだね!人々のために命をすり減らしてでも戦っているんだね!本当に尊敬するよ!」
そんな私の言葉を聞いてアレンは固まる。
あれ?何かおかしいこと言っちゃったかな?
そんな沈黙をかきけしたのはエリスさんだった。
「アレン、良かったね。魔術棟の新人はとてもいい人のようだ。安心したよ。」
エリスは微笑む。
「はい!アホなところはあるけど、本当にいい人です!」
アレンは満面の笑みで言う。
アレン…。君、貶してるの?それとも誉めてるの?私アホって言ったの聞き逃さなかったからな!!
そんな時を過ごす午前なのでした。
ちょっとシリアスにしてみました。
アオイの温かい目はド○えもんのイメージで想像していただければ。