にゃーちゃん来訪・続々
財布を取りにアパートに戻り、にゃーちゃんのリュックの中の重たい米などを下ろし、再度東京駅を目指す。
「お日様ぽかぽかで冬じゃないみたい」
車窓から外を眺めてにゃーちゃんが呟く。雪のない冬はやはり雪国育ちの私達にとって違和感があり慣れないのだ。
「にゃーちゃん来るとき結構、雪降ってたんでしょ?」
「そうそう!駅までの道でね、除雪車の後ろになっちゃって、すご〜くノロノロ運転で新幹線に乗り遅れちゃうかとドキドキしたの!」
にゃーちゃん、一応、電車内だから声のボリューム抑えましょうね。
近くの人の視線に気付いてにゃーちゃんは声を落とす。
「やっちゃったぁ…もう電車降りるまで黙ってる…」
俯くにゃーちゃんの頭を撫でる。
なでなで。
なでなで。なでなで。
にゃーちゃんの頭は撫で心地最高。サラサラの髪を撫でるのは、とても癒されるので撫で続ける。愛情込めて撫でる。
なでなで。
にゃーちゃんは…年下の彼氏にも頭を撫でられてるのか…。ちょっと、切なくなってきた。嫉妬の感情を誤魔化すように、わしゃわしゃと強めに撫でる。大人気ないな、私は…。にゃーちゃんの幸せを願ってるはずなのに、上手くいかない。
「もぅ〜ぐしゃぐしゃにしないでよぅ」
ぷんすかと、にゃーちゃんが訴えてきた。
「あれ?電車降りるまで喋らないんじゃなかったっけ?」
ちょっと、意地悪を言ってみる。怒ったり、拗ねたりする、にゃーちゃんも可愛いので、わざと怒らせたりしてしまう。あぁもう、どうしようもないな、私は…。
「りっちゃんの意地悪ッ」
ぷいっと、そっぽを向くにゃーちゃん。頬を膨らませて怒るのは子供っぽいよって、いくら注意しても、にゃーちゃんは変わらない。怒った顔も可愛いよ。と言いそうになるが言わない、言えない。
「ごめん、ごめん。にゃーちゃん、お昼何食べたい?うどん?ラーメン?スパゲティ?蕎麦?」
「麺類ばっかりじゃん」
「にゃーちゃん好きでしょ」
「好きだけど、美味しいワインも飲みたい!」
「昼間からお酒ですか」
「運転しないからいいじゃん」
「じゃあ、イタリアンバルとか?」
「わ〜い!ワインで乾杯〜!!」
表情がくるくる変わって忙しいな、にゃーちゃんは。
…ずっと、一緒にいたかったな。ズキリと胸が痛む。
にゃーちゃんの態度が付き合ってた頃と変わらないから勘違いしそうになるけど、今の関係は、友達なんだよね?
別れたのは悪い夢だったりしないかな?
年下の彼氏は空想の産物だったりしない?
…はぁ。
そもそも、にゃーちゃんは、どうして泊まりに来たのだろうか?
研修が事実だとしても、元恋人の部屋に宿泊するのは危機感がないのではなかろうか。それか、私を試しているとしか思えない…。
聞きたいが、素直に答えてくれるものだろうか…。いやいや、仮に答えが「友達だから」だったら私は立ち直れない。完全にアウトオブ眼中って宣告されるのは避けたい。
「りっちゃん?」
ヤバい、考え過ぎていた。
「あ、次、東京だよ。」
折角、にゃーちゃんが来てくれたんだ。今は楽しもう。よし、口角上げて行こう。今日は沢山笑おう。
東京駅のホームに降り立ち、人混みで、はぐれないように、にゃーちゃんと手を繋ぐ。
それだけで幸福を感じる私は単純だ。