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序章
雷鳴が、腹の底まで震わせるように響いている。雨はまだ降ってはいないが、空気は湿気り、いつ雨粒が地を打ってもおかしくない。女を乗せた馬車は、野良道を無理矢理に駆けていく。時折激しい揺れが女を襲い、御者が申し訳なさそうに女を気遣うが、今は早く、この土地を脱しなくてはならない。彼女は膝を抱えてひたすらに祈りを捧げる。金の輪のペンダントを握り締め、懺悔をする。
「神よ、神よ、罪深きわたくしの行いを、どうかお許しください」
「わたくしはどうなっても構いません」
「わたくしを逃がした、あの方もきっと、喜んで罰を受けるでしょう」
「どうか生まれてくるこの子に、祝福をお与えください」
「どうか、神よ」
力強く蹄の音を立てて馬車はひた走る。空を裂くように雷が走り、一瞬辺りを照らす。
雨はまだ降らない。