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日傘のアリス  作者: きょな
白いドレスのシンデレラ
16/17

ウサギが家に帰ると、アリスが迎えに来た。


時刻はまだ夜八時くらいだったが、アリスはパジャマ姿だった。


ウサギはコートを脱ぎながら言った。


「もう寝るのかい」


アリスは首を横に振った。


「今日はパジャマパーティーをしたいと思ったの」


ウサギは顔を引き攣らせながら行った。


「誰か来るのかい」


アリスは首を横に振った。


「来ないわ。私達二人だけでするの」


アリスはそう言って笑っておつまみをウサギに見せた。


炭酸のジュースにスルメなどオッサンが食べそうなものが多かったが、ウサギは何も言わない様にした。


ウサギはそこで言った。


「僕は、パジャマなんて持っていないんだけど」


アリスはそこで自分のパジャマをウサギに渡した。


どう見てもサイズが合う様には見えなかったが。


ウサギはそれを手にとって言った。


「僕はいつものままで良いんじゃないかな。君の服はサイズが合わなさそうだしね」


アリスはウサギの言葉にぶう垂れた。


「それならいつもの就寝前と変わらないじゃない」


ウサギは笑ってこう言った。


「確かにそうだね。でもそれだからこそいいんじゃないだろうか」


アリスはそれでも認めなかった。


「嫌よ。ウサギにパジャマを着てほしいの」


ウサギはアリスのパジャマを指差しながら言った。


「でも君のパジャマは可愛らしいのばかりだ。僕が着れるものなんて無いよ」


アリスはウサギのコートを受けとって洋服たんすにかけようとした。


しかし、アリスは何かに気づいたのかウサギのコートをくんくん嗅ぎはじめた。


そしてウサギを見て呟いた。


「…女の匂い」


ウサギは肩を震わしてなるべく平然そうに言った。


「まあ会社の友達と会っていたからね。女性の匂いが付いていたとしてもおかしいことじゃないだろう」


アリスはそれでも不審そうにウサギを見て言った。


「その女性、こんなにも良い匂いなんだね」


ウサギはアリスからコートを受け取り袖を嗅ぐと、まろやかな甘い匂いが付着していた。


それはあの時感じた黒アリスの髪の匂いだった。


ウサギは言う。


「確かに良い匂いだよ。だけど君が使ってるシャンプーも良い匂いがするはずなんだけどなあ」


アリスはウサギの褒め言葉も無視して少し怒った声で言った。


「私のシャンプー安物だし…。こんなに良い匂いにならないし…」


黒アリスがかつてウサギに賃貸のアパートで全て常備されているものをケチケチ使っていると言っていたからアリスの言っていることは違うなあとウサギは思った。


なら何故それほどまで黒アリスが良い匂いをするかというと、


それは黒アリスの存在が影である為体臭を全く出さないというところだろう。


ウサギがそう思っていると、アリスは悲しそうに自分の髪を解かしはじめた。


これ以上アリスに独り言を言わせると面倒臭い事に成り兼ねないので、ウサギは一度反応することにした。


「今度ショッピングモールで最も値段の高いシャンプーを買ってくるよ」


ウサギがそう言ったにも関わらずアリスは不満そうに頬を膨らました。


「家のシャンプーだって私のは十分お値段が高いじゃない」


ウサギは顔を引き攣らせながら言った。


「そうだね、だけど君が不満足なら仕方が無い。探してくるよ」


アリスは怒ったようにウサギの頭を叩いた。


そしてさらに頬を膨らませながら言う。


「私をわがままな女の子扱いしないで」


ウサギは頭を掻いた。


これだけ我が儘を叫ぶ少女を我が儘扱いしないで一体誰を我が儘扱いすれば良いのだろうか。


そうウサギが思っていると、ウサギが持っているコートを奪い取り奥へツカツカと歩いて行った。


その背中は怒っている風にも悲しんでいる風にも見えた。


ウサギはトボトボとアリスの後ろを付いて行くと、そこには既にアリスの言うパジャマパーティーの準備がされてあった。


準備がされてあったといえば大袈裟だがすでに焼鳥や炭酸飲料は置かれていたのだ。


その光景から彼女なりに自分が帰ってくるのを待っていたんだろうなとウサギには想像できた。


そう思うとウサギはなんだか嬉しくなった。


ウサギが小さく笑うと、アリスは驚いたように振り返った。


アリスの瞳には狂ってしまったのではないだろうかという疑問が感じられ、それでも笑ってしまう。


とうとうアリスの頭の要領が満タンになったのかアリスはウサギに聞いた。


「どうして笑ったの?」


ウサギは首を振って言った。


「笑ってなんかいないさ」


アリスは頬を膨らませた。


今や頬を膨らませるのがアリスの癖となっていたのだがアリスはその事を理解していなかった。


アリスは言う。


「笑っているじゃない」


ウサギはもう一度笑って言った。


「ならどうして笑っていると思う」


アリスは顎に手を当てて考えはじめた。


「私が面白かったからでしょ」


ウサギは首を横に振った。


「違うさ」


アリスはさらに唸って言った。


「思い出し笑い?」


ウサギは指を振った。


「全然違う」


アリスはとうとう諦めたようにうなだれる。


そしてウサギに答えを求めた。


「なら答えは何?」


ウサギは言った。


「ギブアップ?」


アリスは悔しそうに頷いた。


それにウサギは満足そうに微笑み、アリスの耳に口元を近づけて言った。


アリスの髪も黒アリスのような匂いがした。


「アリス、君が僕の側に居てくれるからさ」


ウサギがそう言うとアリスは恥ずかしそうに下を向いて微笑んだ。

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