相談
週末は、またバンドの活動で午前中から「フロッグ」に集合した。前回の続き、新曲打ち合わせだ。
みんなの持ち寄ったメロディが合わさって、一つの曲に仕上がっていく。初めての感覚に凜の胸は踊った。すごい!ここ、わたしが作ったんだ!全く違うテイストのみんなのメロディに、自分のメロディが絶妙にはまっていく。
なんだかすごく嬉しい!
「ね、凜ちゃんさ。ここにコーラス入れてくんない?短くていいからさ。」
「え?わたしにできます?」
「だーいじょうぶだって。さぁさぁ、やってみる!」
ちょっと強引に純に促され、やってみると意外に自然に入ることができた。
「凜ちゃん、最高!まじでいい曲できたかも。」
「うん!すごいよ、凜。良かった!」
カウンターで見ていたまことが嬉しそうに声をかけた。
「そう、かな?まことに褒めてもらえるなら自信持てるかも。」
「何?俺じゃ、信用できない?」
「あ、いやっ、そういうわけじゃ!スミマセン、純さん!」
「ははっ、そんな慌てなくても…。でも、本当にいいよ。上出来!」
他のメンバーからもお墨付きをもらって、今日の役目は無事終えることができた。
「ねぇ、まこと。ちょっと相談したいことあるんだけど…。」
みんなでランチを取ったあと、小声でまことに話しかけた。
「何?どうしたの、改まって。」
「あのね…、結子から、メールがきたんだ。それで、その…謝られたんだけど…。
また友達に戻れるか、って聞かれたんだけど、正直、どうしたらいいのかわからない。結子を許せない訳ではないんだけど…。まことは、どうしたらいいと思う?」
「…そっか。野木さんが。
凜がしたいと思ったようにしたらいいんじゃない?」
なんだか突き放された気がした。そうか、やっぱりまことに聞くのは違ったかも…。
「あ、ゴメン。そうだよね、こんなこと、まことに聞かれても困るよね?へへっ、ごめんね。」
「…?あぁ、いや、そうじゃなくて、本当に。わたしはわたし。凜は凜、でしょ?わたしに遠慮なんかしないで、凜が思ったようにしたらいいって意味ね。」
驚いて、まことを見つめる。まことは優しく笑っていた。
「…ありがとう。まこと。そう言ってもらえて、なんだかちょっと気が楽になった。そうだね、わかった。どうしたいのか、もうちょっと考えてみるよ。」
その夜、凜は前回約束した通り、まことと純を自宅に招いて、母の手料理を味わった。
「これ、すごい美味しいです。今度教えてください。」
「あら、そう?じゃあ、次は一緒に作ってもらおうかな?」
「え?いいんですか?やったー!」
まことと母の楽しそうな会話が聞こえてくる。
「まじで旨かったです!俺までおじゃましちゃってすみません。」
皿を片付けながら、純が母に話しかける。
「いーの、いーの。沢山食べてくれるほうが作りがいがあるじゃない?それに、男の子の食べっぷりなんて気持ちいいし。うちは娘ひとりだから。またいつでもどうぞ。」
「ありがとうございます!じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます(笑)」
「もう、お兄ちゃん、ちょっとは遠慮してよ。」まことが純さんを軽くにらむ。
「ふふっ、遠慮なんていらないのよ、凜が元気になったのはあなたたちのお陰なんだから。感謝してるのよ。」
「そうだよ、まこと。今のわたしはまことのお陰で元気なんだから。もちろん、純さんにも感謝してます。わたしに新しい世界を開いてくれたようなものだから。」
「そんな風に言われたら照れる。なんか俺、すげーみたいじゃん(笑)」
「純にぃ、調子乗りすぎ。あ、あれは?」
「あ、そうだった。これ、ごちそうになるだけじゃあれなんで…。夏みかんです。」
「あら、ありがとう。早速デザートに食べましょう。」
二人が帰ると、母がニコニコしてわたしを見ていた。
「何?気持ちわるいなぁ。」
「ううん、純君、いい子ね。」
「何?急に?そんなんじゃないし。」
「あら、そう?凜がそう言うなら、そういうことにしといてあげようかな?」
「もう!違うってば…」
そんな風に言われたら、意識しちゃうじゃん。そんなんじゃないのに。
部屋に戻り、まことに言われたことを考えた。わたしは、どうしたいのか?結子とまた友達に戻りたい?今夜一晩、ゆっくり考えて、明日結子に返事しよう…。学校にもそろそろ行かなきゃ…。