テンプレな俺は
PCの前に腰を据え、ガシガシと頭を掻く。タバコを吸いたくなる衝動をガムを噛んで誤魔化しながら、ひとりごちる。
「あ゛ー書けない。マジ書けん。」
俺はなにを書いているのかというと、小説である。でも、俺の職業は小説家ではない。書いているのはweb小説、「小説家になろう」の小説だ。趣味で書き始めたのだが、ブクマを付けてくれる人がいるというのが嬉しくて。以降空き時間という空き時間は書く時間となっている、のだが。
書けないのだ。続きが。
浮かばない。次にどうしたらいいのかが。俺…なんの為に書いてるんだっけ…。趣味だったよな。なんで趣味で苦しい思いを?あ、でも趣味マラソンって人もこの苦しい感覚を乗り越えるとハイになるって言ってたな。俺も乗り越えたらハイになれるのかな。なんかヤバイ意味でハイになりそうだわー。あははは。
そんな壊れかけた思考をしていると酷い目眩に襲われる。世界が歪む。ぐにゃりという音がお似合いな景色。あぁ。ヤバイ。本当にヤバイ意味でのハイになってしまったのか。そう考えながら、あっさりと俺は意識を手放した。
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俺は目を覚ました。見覚えのない薄暗い部屋。内装はなんだか洋館風で、立派な部屋だった。ひんやりと冷たい石の祭壇の様なところに俺はいた。先ほど倒れたのが嘘のように身体が軽い。起き上がって軽くストレッチする。なんか手の色とかヤバくない?青っぽいんだけど。それに身体、デカくなってる?これってさぁ、「なろう」によくある転移ってやつかな。しかも、チートな魔王になって世界征服するとか、村を作るとかさ。それ系?いーねー。やってやろう。手下的な人はいるのかな。探そうと部屋を出て歩こうとする。バタバタ、と駆け寄ってくる人影。
「バルバロイ様、お目覚めになられたんですね!」
お、手下発見。なんか悪魔かなんかかなぁ。銀髪のエロいオネエさんだ。しかも俺、バルバロイって名前なんだ。なんか聞いたことあるな。どのゲームだっけ?
「うむ、俺はどれくらい眠っていたのだ?」
とりあえず、魔王っぽく答える。千年の眠りから覚めたとかそういう設定的なの、はよ!!オネエさんは視線を泳がせながら首を傾げる。
「えっと、昨晩ですね。」
思わずズッコケそうになった。そういうボケはいらんよ?それともコイツは乳だけに栄養が行ったタイプのヤツか?…なんか覚えがあるな。
「で、おまえ、名前なんだっけ?」
とりあえず、偉いから下っ端の名前なんて忘れたみたいな雰囲気で名前を聞き出す。
「バルバロイ様、酷いですよ!第一配下の…えーと…夢魔の…」
もしや…自分の名前忘れた?あぁ。やっぱ乳にだけ栄養いったタイプの残念ちゃんだねぇ。俺、確かに巨乳は好きだけど、そこまでアホには興味ないわーって違うわ!第一配下のサキュバス。バルバロイという名前。これってもしかして。この世界って……
俺の小説だ。
俺は頭を抱えた。第一配下のサキュバス、彼女が自分の名前を覚えていないのも無理がない。彼女には名前がない。主人公の勇者を誘惑しにいったが最期、勇者の絶倫具合に骨抜きにされて、以降、勇者のハーレムでもモブキャラ扱いになるのだから…。そしてもっと大事な事。彼女を送り出して、そのしばらく後、俺は主人公の勇者に瞬殺される。なぜなら、俺の書いていた小説は俺tueeeのチーレム小説なのだから。
「あぁぁぁぁ。どうしよう…。」
結末は決まってないけど、魔王が倒されるのは決定稿だ。しかも相手は俺tueee勇者。どうやって勝とう…。ん、でも、勝っていいのか?勝ったら俺の小説は成立しなくなるぞ。それに倒されて、俺は元の世界に帰るんじゃないか?倒されないといけない気も。どうやって倒されたんだっけ?なんか魔王戦はさっくり終わらせて、ハーレムの勢力争いの方に力入れちゃったからなぁ。自分の小説なのにわかんないなんて。設定の甘さが滲みでてら。
「バルバロイ様、どうなさいました?」
ニコニコと笑う残念巨乳。元の世界に帰ったらちゃんと名前を…いや、今付けてやろう。笑顔が可愛いしな、残念だけど。
「今日からおまえ、リリスな。」
「はい!え?あ、私。リリスですね!バルバロイ様、私の名前はリリスです!」
だから、今、俺が付けたんだろ?アホな子だ。このアホさ加減がクセになるな。サキュバスのパワーかね?なんか和むわー。見た目はエロいオネエさんなのに。とりあえず今が小説のどの辺りなのかの状況を確認する。
「リリス、配下たちはどうしている?」
「はい…第三配下の…ミノタウルスも勇者タツキに倒されてしまいました…。」
思わず、笑いをかみ殺す。なんで俺、勇者に自分の名前つけちゃったんだろう?ちょー恥ずい。しかもそのうち「よく来たな!勇者タツキ!」って自分でいうんだぜ?両手で顔を覆いたいくらい恥ずい。元の世界に帰ったら勇者は名前変えよう…状況は第三配下倒されたってことはもう少しで俺は倒される運命。さて、どうしたもんか。
「今宵は私めが勇者、タツキを倒してまいりましょう!!」
アホな子改め、リリスが意気込む。そうそう。それでリリスが勇者に骨抜きにされて、魔王の元まですんなり来ちゃうんだったな。うーん、とりあえず、リリスは行かせないでおこう。勇者のところに行くとモブ扱いだし、使い捨てキャラにするには惜しい人材であることも判明したし。話の流れ変わってしまうけど、勇者は俺tueeeチートだもん。どうにかしてくるさ。さて、どう言ってヤル気になってるリリスをこの場に留めるか。…ふぅむ。リリスに付いてる2つの立派な球体を手に乗せボールのように持ち上げて思案する。
「残念だが、リリスのコレを持ってしても、勇者には勝てんのだ。」
役職特権で触ったなんてそんなことはない。俺こと魔王様に性欲はない、残念ながら。触ってもなんとも思わなかった…残念だけど。それの確認だ、残念です。地球上の女性にやったら一発アウトだが、リリスは俺が触ったことで嬉しいような困ったような顔をしている。さすが淫魔。
「そして、勇者に籠絡されるされて、利用される。」
ヤレヤレ顔で俺が言うと、リリスはハッとした顔になった。
「バルバロイ様、未来が…見えるのですか…?」
「見える…とは違うな。」
俺が作った話だから見えるとは違う。しかし、そうなることは分かっている。俺が倒されることも。どうやってかは知らないけど。
「…これから城のダンジョンを改造する。後、ハルピュイアを勇者の元に遣れ。…文字数、じゃなかった、時間を稼ぐぞ。」
「なぜです?」
「勇者は強い。油断ならない敵だ。迎え撃つには準備が必要だからだ。」
準備しても倒される運命だけど。瞬殺じゃなく、苦戦くらいはさせてやりたい。小説の展開的にも。
「わ、私は…?」
リリスは涙目で聞く。これから裏切ると宣言された上に、自分は頼ってもらえもしない、これからどうしたらいいのかという懇願の目だった。
「少し戦術でも考えとけ。最終決戦は俺と一緒に戦うんだからな。」
そう言って半眼で見てやると、にぱぁと明るい笑顔で頷いている。倒されるとも知らずに。でもなぁ、リリスには残ってほしいな。こんなおいしいキャラを残さないなんて勿体無い。でも今すぐ遣るのもモブになる。…そうだ。
「やっぱりおまえが戦術考えてもしょうがないか。アホだもんな。」
「え?!バルバロイ様?!」
「最終決戦までは本でも読んでろ。少し脳にも栄養回せ。」
「バルバロイさま…。」
リリスがえっぐえっぐ泣きはじめた。心がズキズキするが、しょうがない。俺は魔王バルバロイだ。蛮族なのだから、酷いことだって言うさ。でもな、俺の頭に浮かんだのはこれなんだ。苦戦する勇者、第一配下のリリスが最終決戦中に裏切る。これならおまえは勇者ハーレムでもパワーバランス上の方になれる…はずだぞ?リリスには伝らないであろう思いを胸に抱き、俺はダンジョンを改造すべく、急いで部屋を出た。
勇者はやってきた。予想より早く。時間稼ぎに遣ったハルピュイア乗って。マジかー。女ならなんでもいいのか?自分の生み出した主人公が見境なさすぎて…お父さん、お前が怖いよ!!コレ、苦戦させられるか不安になってきたわ。ふと横に控えているリリスを見遣ると俯いていて表情は伺えなかった。リリス、お前は生き残るんだ。そして面白い展開期待してるからな?
「よく来たな!勇者タツキよ!このバルバロイがお前を倒してくれるわ!!」
一応お約束だから言ったけど、ごっそりSAN値持ってかれた…。あ゛ーちょー恥ずい。
勇者一行の戦士が言う。
「タツキ!すごいわね?どんな魔法を使ったの?魔王の精神値が減っているわ!!」
お嬢さん、コレは自爆ってやつだよ?勇者の力じゃないからね?
「ふっ、お、俺にかかればコレくらい…。」
…動揺すんなや。カッコ悪い。さあ、どんな技でも掛かって来い。とりあえず、作者特権で技とかそういうのはどういう効果があるとか、どうしたら避けられるか分かってるんだぞ?
「さぁ、こい!」
「ふん、お前を倒すには剣などいらぬようだ。行くぞ!!」
勇者は剣を捨てた。おっと?予想外。魔法か?俺が弾けるヤツならいいけど。勇者はすぅっと息を吸うと大声で叫んだ。
「ブクマがつかない!ついたと思ったら更新のたびにどんどん減る!!お前の作品なんかつまんねー!!書くんじゃねぇ恥晒し!!」
一同の頭にハテナが付く。俺以外の。精神攻撃かよ…。今の俺へには効き目抜群な。
「効いてるわ!!意味がわからないけど!」
勇者一行の僧侶が言うと、勇者はドヤ顔で続けた。
「せっかくついたポイントにも自作自演容疑!!必死だな?複垢か?!」
「うぐっ!ヤメ…」
あぁぁぁぁもうダメだ。それはいかんよ?やってないのに疑いとかかけないで?俺は膝から崩れ落ちた。もうダメ。立ち直れない…。
「もう精神抵抗も出来まい!よし、トドメだ!即死魔法を…」
「バルバロイ様!」
勇者が俺にトドメを刺そうという時、声が響く。男の声だ。声の方向を見ると、銀髪のイケメンがいた。
「誰…?」
思わず素の声で聞いてしまう。
「リリスですよ!!」
「お前、女じゃなかったのか?!」
「夢魔に性別はないですよ?」
女の姿だからサキュバスだとばかり思っていたら、TS可能なのかよ!!
「今終わりましたから!」
「は?」
そしてリリスが見遣る方向をみると、勇者が一行の女たちにボコボコにされている。
「勇者じゃなくて他を籠絡してみました!!」
「お前…アホじゃなかったんだな。」
にぱぁと笑うリリス。なんか違う扉開いちゃいそうだぞ?すると、景色がぐにゃりと歪んでいく。来たときと同じ。小説の世界を破壊したから?俺、戻れるのかな…。腰のあたりにじんわりと痺れを感じると、また意識が遠のく。
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俺は机に突っ伏していた。身体がバッキバキだ…。なんだよ、夢オチかよ。夢オチはダメだろ。でも小ネタは仕入れられて悪くなかったかもな。魔王戦は全カットだけど。俺はPCに向かいなおす。ふとみると、書きかけの小説の最後に
「タツキ、ご馳走様。」
の一文。………やられた。
読んでくださってありがとうございます!




