第2話 テルア村防衛戦
第2話完成です。
・第2話 テルア村防衛戦
誰のために守る。
誰のために戦う
騎士でもない者は
ただ、守る
恐怖も感じない兵士から
ただ、小さな村を
小さな1つだけを花を守るかのように
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テルア村から離れた場所でタスクが8人のバルベル帝国の兵士を殺した後、ガサドは遠くで様子を見ていた。
ドラゴンが下に降りていく姿を見て、疎開した人たちの荷物を漁っている様子を見て戦闘が終わったのかと理解した。
ガサドは村の人たちに避難の指示を出して、タスクへの元へと向かった。
ドラゴンの元へ行くとローズが敵も味方も分け隔てなく布が被せられていた。
「よぉ、また助けられたな」
「気にするな。もし、感謝の印を示すなら村の避難を済ますことだな」
「それは部下に指示をしたよ。それより、タスクは寝てるのか。久しぶりの戦いだからな」
タスクは毛布に包まって寝ていた。今まで人を殺したことも忘れるかのようだった。
「見た目はかわいいのに、中身がな……」
「主のよさをこの世界が認めるほうが稀じゃよ」
ローズは怒らずに、諭すようにガサドに言う。
「さすが、ドラゴン様。言うことが為になる」
「おまえさん、本気で思ってるのか。まぁ、どうでもよい」
そう言って、地面に土を掘っていく。
「悪いな」
ガサドはローズに真剣な声で言った。
「気にするな。ただ、こやつらは死にたくて死んだわけじゃない。せめての救いじゃよ」
ローズは死体を丁寧に掘った穴に入れていく。
ガサドは黙って見ていた。よく見れば、小さい子どももいた。
赤子を抱きかかえたと思える母親もいた。
「帝国は何を考えているんだろうな」
ガサドは気を変えるためにローズに問いかける。
「人の考えることなぞ、妾の知らぬこと。しかし、答えを求むなら……人の限りない欲望が戦争を起こして力を得て戦うと思いたいが、帝国の兵士は見たところ様子がおかしかった。主に聞けば何かしらわかることだろう」
ガサドは少しだけ心が軽くなったような気がした。
「すまねぇな。大戦争を経験したのに。くわしくはこいつに聞きたいが……」
ガサドはちらりとタスクを見てため息をついた。
「それどころじゃないよな。こいつら、斥候だと思うし1人だけ部隊を離れたから報告に行ったと考えれば何かしらの攻撃があるよな」
「来るかもしれない。しかし、不安がる必要など無い。妾と主が何とかする。それよりも、主を村に運んでくれぬか」
ガサドはローズのお願いに対して
「ああ、かまわねぇ」
と答えて
「お前はどうするんだ」
と尋ねた。
「妾は偵察へ行く。おそらく、多くが来る。安心するがよい。主だけでも村は守れる」
「……否定できないところが怖いよ」
ガサドは首を横に振りながら、タスクを担いだ。
タスクは眠り続ける。
ローズは口から火を吐いて死体を燃やした。高温で死体を燃やしていく。
ガサドはそれを見ながら
「おれは行くぜ」
と言ってローズから背を向けてテルア村へ向かうのであった。
タスクが眼を覚ますとベッドの上だった。手で周囲を調べて、どこからともなく2mの棒を出す。
こんこんと地面を叩きながら歩いて行く。
周囲の音の反響から自分の置かれた状況を調べていく。
音からして、四角い部屋の中にいる。ベッドが置かれて、四角い箱のようなものがある。おそらく、タンスだろう。そして、壁には何もなくて小さな飾り気のない寝室とタスクは判断した。
棒を使いながら周囲を調べつつ、音の反響から薄い壁の前まで歩く。
薄い壁に触れて冷たい感触を感じる。
タスクが掴んだのはドアノブだった。耳につけているドアを開けてイヤーマフを外す。
いろんな声が消える。
「いそげ、慌てず避難しろ」
「ぎゃああぁあああ、あついぃいいいいい」
「殺せ、殺せ」
「ちゅん、ちゅん、ちゅん」
人の声や鳥の鳴き声が聞こえる。
「お母さん、もう家に帰れないの」
「げこーげこーげこー」
タスクはイヤーマフを付けた。音は聞こえなくなる。
とりあえず、自分が聞こえる範囲に敵がいる。
(ローズ。敵は見つけた?)
タスクはローズに話しかけた。
(主か、見つけた。たくさん来ている。軽く足止めしたいのだがな、飛行船の足止めに追われている。すまないが、地上の敵を頼めるかのぉ)
ローズの報告にタスクはにやりとした。
(大丈夫。それより、私はどこにいるの)
(テルア村だ。ガサドに運ばせた)
(わかった。ローズ……)
(心配するな、妾が人間の作ったもので簡単にはやられんよ)
タスクもローズが簡単に倒されるとは思わない。でも、自分が心配している意思を伝えたかった。
(……ゆっくり、楽しむがよい)
(うん)
タスクは返事をすると何も言わなくなった。足音がするからだ。足音の方向を向くと
「お前に奇襲は無理だな」
という男の人の声がした。
タスクは声からガサドだと判断した。
「……」
タスクは何も言わない。ただ、にやけた顔はしておらず、どこか神秘的な表情をしていた。
ガサドはこいつが戦場でにやりとしている場面を見ているので、神秘的な顔をしても何も感じない。
それどころか、少しばかり畏怖している部分があった。
「あいかわず、何も言わないな。ドラゴンがいないと話せないのか」
「……」
タスクは何も言わない。
ガサドはタスクの態度に怒ったりはせずに、背を向けて言う。
「俺はこの村に残る。お前を見届ける必要があるからな。だから死ぬなよ。俺も死にたくないからな」
ガサドはタスクに手助けするつもりなんてなかった。それどころか、これから来ると思われる大軍にタスクが負けたら一目散に逃げる予定である。
ただ、ガサドは契約者が来ない限りは大丈夫だと思っている。
タスクはこくりとガサドに頷いた。滅多に話さないだけで、感情表現はできる。
タスクはイヤーマフを外して敵の方向を調べ、これから来ると思われる大軍へと方向を変えて歩き出した。
ガサドはほんの少し見守り、タスクに背を向けて歩き出すのだった。
約5000人で構成されたバルベル帝国の旅団は偵察部隊の報告を受けて小隊を派遣した。
しかし、途中で小隊からの短い連絡が届く。
「ドラゴン」
それを聞いた旅団長は空軍にドラゴンの盗伐を命じて、テルア村への進軍とドラゴン討伐部隊と分けた。
そして、約2500の兵がテルア村へと向かっていた。
戦車と呼ばれる魔導兵器が100台。4足歩行へ動く多脚砲台が20台などの兵器が見えた。
戦闘を歩く1人の兵士は遠くで動く何かを見る。
緩やかな高低差のある平原。そこで何かが動くのが見えた。
すぐに報告をすると、望遠鏡で動くものが何か調べた。
「……肉だ」
赤黒い血のような服を着た人がいた。右手には盾を左手には先があまり尖っていないランスを持っていた。
「……」
フードを被っていて顔がよくわからない。
ただ、黒い血の色をしていると思った。そして、それはまぎれもなくタスクだった。
兵士はタスクを見ながら、よだれを垂らした。そして、走り出しい衝動に駆られる。
しかし、指示を待つ。
ばしゅううううう
空に信号弾が打たれる。赤色の発煙と点滅が見えた。
これが意味することは突撃だ。バルベル帝国の指揮官は、目の前の人間を数で押し倒して、テルア村を一気に制圧をすることを選択した。
そうと決まれば早い者勝ちである。己の苦しみと渇きから逃れるために走り出す。
「「「わぁああああああああああ」」」
大勢の人の声の声が重なって聞こえた。
それに対して、バルベル帝国の前に立ちふさがったタスクはその音に心が躍った。
左手に握られたランスと右手に握られた盾を握りしめた。
このランスと盾はある騎士が使っていたものだ。タスクはこれを騎士の夢想と呼んでいた。
タスクは脇を閉めてランスと盾を固定して走り出した。
1対約2500の戦いが始まった。
多勢に無勢という言葉通りにいけば多雨s九には勝ち目はない。
しかし、タスクは契約者である。普通の人と比べたら強かった。
それに勝つ自信があったから突撃したのだ。そして、タスクは約2500の兵にとぶつかった。
あまりいい音はしないが、タスクは兵を突き飛ばした。
ランスの先は尖っていないので兵に突き刺さることなく大きな打撃を与えていく。
タスクはまるで猪のように止まることを知らなかった。
周囲の兵士を吹き飛ばしながらある1点を目指していく。
「……まさか」
この軍隊を率いる指揮官はタスクが向かう先が自分ではないかと思った。しかし、見た目も服装も同じにしか見えないようにしている。
バルベル帝国の人でもこの数から見つけ出すのは不可能だ。
しかし、タスクは指揮官の前へとやって来た。
指揮官は戦車への中へと逃げ込んだ。そして、タスクをなんとしても止めるように指示を出す。
むろん、そんな指示をしなくてもバルベル帝国の兵士たちはタスクを止めようとしていた。
指揮官は戦車から外を除かずに息を潜めた。
ごん
「……」
大きな音がした。指揮官は恐怖を感じていなかった。ただ、頭は合理的に物を考えていた。
そして、導き出した答えは戦車上にタスクが乗っているということだ。
「……」
がきゅん
大きな銃声がした。
それと同時に指揮官は自分の顔が吹き飛ぶような感覚を覚えた。そして、それ以後は何も感じることがなかった。
「……」
タスクに視覚的意味は無い。ただ、音を頼りに指揮官の前まで来ていた。
そして、戦車の何処に隠れているかもわかっていた。
だから、ランスで戦車を思い切って突いた。次に束の部分にあったトリガーを引く。大きな爆発音と共にランスの先端が突き出る。そう、ランスの先はパイルバンカーとなっていたのだ。
タスクは指揮官を倒すと周囲の音を聞いた。
周囲が静まり返ったのがわかる。しかし、タスクは動きを止めずに躊躇なく、戦車に乗っている操縦士にパイルバンカーを突き刺して殺す。のぞき窓の薄いところを狙い砲撃手、装填手、戦車越しでも気配を感じるのだ。隠し切れない苦悶を感じていた。さらに、だが、これで戦いが終わるとは思っていない。
タスクはゆっくりと戦車から降りた。
周囲には大量の気配。敵がたくさんいる。しかし、絶望などしていない。ただ、首を動かして周囲の様子を確認。自分を攻撃しようとする人から攻撃を加える。
左手のランスで薙ぎ払い。数人の兵士が布団だ。
けれど、それを埋めるように次の兵士が押し寄せる。
バルベル兵士の1人が背後から攻撃を加える。
タスクは右手に持った盾で防ぎ一気に突き刺した。
バルベル帝国は手に持った盾でガードするが盾ごと吹き飛ばされる。
そのまま、振り返りながら自分に迫る敵の足元を薙ぎ払う。そのまま、倒れた兵士を踏み付けながら、前へでて目の前の敵を突くのと同時にトリガーを引く。
がきゅん
銃声と同時に数人が吹き飛ぶ。
あまりの威力に貫通しながら数人が吹き飛んだ。
タスクの周りから敵が距離を取る。まるで、そこにクレーターができたかのようだった。
「……」
大きな苦悶が聞こえる。それから、どしんどしんと歩く音。
タスクは音の方を向く。視覚的にはわからないが、音の反響から形がなんとなく理解できる。
4足歩行で歩く。さらに大砲と思えるものを積んでいる。
バルベル帝国はタスクが歩兵では叶わないと判断して、多脚砲台で対抗しようとした。
数は3機だ。1人の人間に対して過剰とも言えるが、タスクは異常だった。
「……」
悲しみも感じる。あまりにもわかりやすい気配に相手の動きが手にとるようにわかる。
1発目の砲撃は脅しだ。動く必要は無い。
次に動いた方向を推定して同時に2つの砲撃が放たれると予測ができた。
タスクはこれに対して1発目を受けるに選択。しっかりと盾で受け流す。
徹甲弾は盾を貫通することなく跳弾。流れ弾が他の兵士に当たる。
さらに、同時に放たれる砲撃は前へでてよける。榴弾を盾で受けても跳弾を見込めないと判断したからである。
敵の気配を頼りにタスクは多脚砲台の下へと潜り込む。むろん、弱点箇所を補うように武器が取り付けられている。
だが、鉄の塊といえるランスで破壊。真下からパイルバンカーで乗り手を殺す。例え、どんなに頑丈でも中の人間がやられたら鉄くずとなる。
崩れるように多脚砲台は倒れる。これによってタスクに壁が1つ生まれた。
動かなくなった多脚砲台の影に隠れると同時に2つの火の球がタスクを狙う2機の多脚砲台に当たる。
(主よ……ケガはないか)
(ない、ありがとう)
ローズを討伐しようとしていた部隊は全滅していた。
(のこるは、こいつらだけ?)
タスクの問いにローズは子ども諭すような声で
(ああ、我が調べた限りはこいつらだけじゃ)
と念話で答えた。
(わかった、司令官は倒した)
とタスクは念話で返事をする。
(全部やるか?)
(……うん)
タスクはローズに返事して、楽しそうな笑みを浮かべ大量の兵士へと立ち向かった。
ローズはそれを遠くから見守っていた。
それに対してバルベル帝国は退却を選択していた。しかし、逃げようとすればローズが口から火の球を吐いて焼き殺す。
副指揮官は1人でも逃げ延びて、このことを伝えなければいけないと思った。
部隊に指示を出していると、急に赤い光を感じた。
「……」
上を向くと火の球があった。逃れる手段はなく、あっけなく焼き殺される。
(主からは逃れんよ。全部、聞こえているのだからのぉ)
ローズはタスクからの念話から指揮をしている人たちを狙った。すこしイヤーマフを外して音を聞くだけだからである。
(ローズ。あそこにいる)
(わかった)
感覚の共有から位置はすぐにわかる。そして、タスクもドラゴンの視覚的情報を得たことで動きが素早くなる。
もはや一方的だった。敵は反撃をするのだが指揮する人間が徹底的に殺されているので混乱状態だった。
しかし、タスクは1つの異常を感じていた。敵に苦悶や飢えや渇きの感情を感じのだが、恐怖が感じないのだ。戦いにある恐怖を感じない兵士はいる。しかし、すべての敵が恐怖を感じてないのである。
(ローズ……はやく終わらそう)
(いいのか?)
ローズはタスクがもっと楽しみたいのではと思った。
(すこし、かわいそうだから)
(わかった。焼き尽くそう)
ローズはタスクの意をくみ取って、口から炎を吐いて焼き尽くした。
タスクも騎士の夢想で暴れまわる。
そして、時間にして42分41秒戦いつづ、タスクとローズは約2500の兵士を殺す。全滅である。
生き残ったタスクは、戦うと手には武器でなく、伸縮自在の棒を持っていた。
体は血まみれだった。はやくお風呂に入りたいと思った。
戦場に漂う匂いは酷いものだった。はやく、死体を集めて燃やそうと思った。
ふらふらとタスクは歩きながら、死体を1カ所へと集めていく。
ローズは穴を掘ってタスクが運んだ死体を入れていく。
何時に終わるかなんてわからない。でも、死んでいるのだ。これ以上、ひどいことをしても意味がないことをタスクは知っていた。
「おーい」
手を振りながら大きな声。タスクはその声がガサドだと理解する。
タスクの戦いが終わったのを見計らって、自警団や協力者を募って連れてきたのである。ガサドは、タスクの元に駆けよよると、タスクの足元はふらふらしていた。
「無茶をするな。それは俺たちの仕事だ」
(……)
タスクは死体から手を放した。そして、自分の手を眺める。
眺めているが見えてない。手からは血の匂いがした。石鹸で洗っても染み付いた血の匂いは簡単に消えない。
(お風呂入りたい。ローズと一緒に寝たい。ぎゅとしてほしい)
溢れ出した欲求をタスクは念話でローズに伝えた。
タスクとは何度か世話になっているガサド。タスクが何かを考えているか予想がついた。だから、ガサドはローズにむかってこう言う。
「おい、ドラゴン。こいつを連れて家へ帰れ。敵兵もこれだけの打撃を受けたんだ。しばらくは、来ないはずだ」
「ガサドよ。恩に着る」
ローズは礼を言うと、タスクを抱きしめて背に乗せて飛び立つ。
その間、タスクは眠たそうにしながらローズにしがみ付く。ひと時の平穏。タスクにはローズのぬくもりが質量の無い砂糖菓子のように感じるのだった。
第2話終わり。次回は騎士の夢想の武器詩を予定しています。
あと、読んでいただきありがとうございます。