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異世界パラドックス  作者: あかま
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第7話 多点的空間転移

 


 思わず目をこすった。

 少し幼くは見えるが、明らかに先ほど転移する前に会話した少女だ。

 となると少女もこの世界に移されたのだろうか。

 外見に違和感を覚えつつ。

 赤城葵はこう疑問を口にする。



「さっき会ったよな?」



「あったとは出会いのことを指しているのですか? それでしたら人違いでしょう。何故なら今さっき2017年から来たあなたのことをそれ以前に知るよしがないからです。よほど時代に名を馳せていれば私も分かるでしょうけど、残念ながらあなたについてはプロフィールくらいしか知りません」



「そ、そうなのか?」



 終始表情を変えない少女、川里寿子。

 喜怒哀楽が未だ表面に出てきていない。

 何を思っているのか。こちらにどういう印象を持っているのか。何を考えているのか。どんな性格なのか。

 ただただ無表情で淡々と会話をしてくる。

 そういう己の欲を殺した性格なのだろうか。



「そんなことより、いいんですか? あの子、連れて行かれますよ?」



 ――そうだ!

 咄嗟に呼び起こる現状。

 大男が巽真凛を気絶させ、そのまま連れ去ろうとしている。

 巽にどれほどの問題があるかは知らない。

 大男の言っていることが本当なのかもわからない。

 


 巽が人を殺める衝動があること。

 巽が拳銃をポケットに忍ばせていたこと。

 風紀委員と名乗る人物に捕縛されたこと。



 これらが何を示し、何が関係しているのか。

 それらを繋げて結論に達するなんて今の赤城の情報源では無理だ。

 だから赤城は、自分の意志だけで動く。

 か弱い女の子が暴力を振るわれ、連れて行かれるところを看過できるほどの非情さは持ち合わせていなかった。



 大男は巽の小さな体を持ち上げ、かついだ。

 濡れたタオルのように曲がる少女の体。

 完全に意識を失っている。その短くて黒い髪の毛のように、ただただ重力に体を預けているだけだった。

 赤城は言う。



「おい待てよ」



 うっとうしそうに舌打ちをする大男。

 殺気を帯びた顔つきでこちらに圧を飛ばしてくる。



「うるせぇな。ここで半殺しにしてやってもいいんだぞ」



 手に持つ槍のようなものの7つある関節部分が青く光り出す。

 ここにも違和感が存在した。

 あのような武器、見たことがない。

 映画やアニメのSFで見られる超科学のそれに近い。

 槍のようなものの先端には穂がついていない。

 棒のように一直線に伸び、先端が少々尖っているだけだ。



 不気味に光るがあれでどうやって武器として使うのか。

 ただ、その光は一瞬。

 大男は槍のようなものを手のひらサイズに縮めた。

 そして背中にある四角い機器に刺すようにしまう。



「まぁ、そんなことしたら俺が粛清されるからな。それにこいつの身柄を委員長まで持っていかなきゃいけねぇ。平成から来た雑魚に時間とってる場合じゃないな」


「それでも俺はアンタを返さねぇぞ」


「そうか。ではな。川里、しっかりこの男を運んでこいよ」



 瞬きだけだった。

 目の渇きをとるための瞬き一回。

 それだけで大男の姿が消えてなくなった。

 そこにあるのはただの果てしない草原のみ。



「なんだ、何が起こった」



 その言葉に反応するように、



「ワープですよ。正確には多点的空間転移。転移させる空間を切り取り空間的座標で定められた場所の空間と入れ替えるモノです」



 ファイルを抱える川里がそれに答える。



「ワープだって?」


「平成出身のあなたには馴染みがないかもしれませんが。シンギュラリティが到来し、人工知能が加速度的に進化していく中で生み出された画期的技術。肉体をそのまま転移させればそこに固形物がなくとも必ず気体やそこにある液体が存在しています。だからクォークから始まるあらゆる原子、分子を取り除き最低限の無の空間を作り出し、そこに転送元を持ってくる。今からあなたも体験しますよ」


「体験って?」


「ワープですよ。初めてとは思いますけど、別段心身に影響はないので安心してください」

 


 ――いや、普通に怖いんですけど

 そして赤城はようやく理解する。

 この少女と大男がこの何もない草原に急に現れた理由を。

 そのワープとやらを使ったのか。


 

 この世界の仕組みについても理解が追いついていく。

 少女が抱えていたファイルを開く。

 何かを始めようとしていたが、その前にこの世界の基本的な情報を確認する。



「川里さんだっけ。キミはどこから来たの?」


「私ですか? 私は2100年出身です。核戦争と人工知能の暴走後、世界が復興され世界経済が回りだした幸せの十年間と呼ばれた時期です。詳しくは地球年表学で学ぶと思います」


「そっか。2100年か」



 やはり、この世界の人間はこの質問に必ず答えられるようだ。

 では本当に色々な時代の人が存在しているのか。



「ん?」



 ここで赤城はあることに気付く。

 とても重大なことに。



 ――あれ? 2100年ってことはこの子あの子とは違うんでね?

 島で出会った白いワンピースの少女。

 その少女と顔も体つきも酷似していた。

 そのため同一人物と勝手に思い込んでいたわけだが。

 赤城が過ごしていたのは2017年。

 その年に会ったということはその近くの年代出身でなければおかしい。

 それにこの世界から自由に地球に行けるのかも疑問だ。



 普通に考えれば地球で会った少女とこの世界で出会った少女が同一人物である可能性なんてほぼゼロに近い。

 一体何を期待していたのだろうか。

 赤城は小さく嘆息した。

 少女は言う。



「それでは準備します。座標はローラ学園正門。本当は私は学園生ですので外部からでも学園に直接行くことは可能なのですが、何分未登録のあなたを連れていますから。それに犯罪踏襲枠ですからさらに面倒くさいです」


「そうだよ。何で俺には殺人の疑いがあるんだよ」


「あなたに行為がないことは知っています。ですが、学園の決まりですので。お付き合いください」


「なんだよそれ」



 少女はその冷たいともとれる表情で端的に話してくる。

 まるでロボットのように、感情が表に出ないというか。 

 言葉には抑揚があるがそれだけ。

 棒読みではなところに人間性は感じ取れる。

 それでもこの子は何が楽しみで人生を送っているのか。

 多少何とも気になってしまった。 



「行きますよ。人工知能が作り上げた超科学都市、圧倒されないようお願いします」



 川里は触れる。

 ファイルに描かれた地図のようなものに。

 そして二人の存在はこの草原から消滅した。

 

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