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異世界パラドックス  作者: あかま
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第6話 二人の殺人者

 


「あまり抵抗するなよ。首に埋め込んだBP爆弾の権利はこっちが所有してんだ」



 ――誰だこの男

 視界を遮ることのない草原からいきなり現れた。

 槍のような武器を持っている。

背中にはリュックのように背負われた四角い形状の機械がある。

 身長が高いだけでなく、体つきも筋肉質。

筋肉質というより、何かと戦うために作り上げられた肉体ともとれる。

 目じりを吊り上げ、憤激を全面に押し出す大男。



「風紀委員、正規メンバー。合津光生……」



 大男の出現と同時に吐いていたセリフをリピートする。

 風紀委員。

 確か巽の話では移民管理委員と同じく三大勢力と呼ばれている組織。

 それに正規メンバーという部類。委員会に正規、非正規があるのか。

 


 今もなおこちらへ近づいてくる合津の横でもう一人、その後ろを歩いてきている女性がいる。

 書類を挟んだ大きめのファイルを両手で抱えている。

 2017年を生きる赤城の理解の範疇ならあの姿は間違いなく部下だ。

 上長の補佐するのが役目。あのファイルの中はスケジュールとか重要な書類が入っているのだろう。

 上の者がいる以上こういう場面、あの女性が意志で動いてくることはない。



 ならば注目すべきはあの大男である。



 合津は身構える巽のすぐ前で歩みを止めた。

 その身長差は一目瞭然だった。

 合津の体が断崖のように巽の前にそり立つ。

 見下ろし見上げの分かりやすい形がここにある。



「巽真凛、何故区域外に出た」



 その質問に忌々しいといった表情を浮かべる少女が答える。



「言ったでしょ。私にとって命よりも大切な場所なの。私の随意がうっとうしいなら、その区域外ってのをこの場所まで広げてくれない」


「お前の申し立てなど聞く価値なし。それにこの場所が大切と言っているが、お前の真意は殺人衝動の充足だろう」


「そんなことない!!」



 声を荒げ、大地を強く踏みつける巽。

 小さな体を震わせ、目を尖らし合津を睨みつける。



「友達の前でありもしない誹謗中傷はやめて!」


「友達?」



 一度鼻で笑う合津。

 それをトリガーに草原に響き渡るのではないかと思うくらい高笑いをする。



「友達って、ついさっき知り合ったこの男がその友達か? 馬鹿かお前。兵器のくせに死んだら涙を流してくれるくらいの熱い友情を求めているのか。お前が死んでもそんな奴はいないし、むしろみな安堵し歓喜するだろう」



 そして嘲笑いを続ける大男の目の前で、小さな少女は腕を震わせていた。

 我慢しているのだろう。

 発言権はない。

 ここまで言いたいように言われる。

 そして馬鹿にするように笑われている。

 その心情はどれほどのものなのだろうか。

 自分より体の大きい相手に対して、一歩も引かずただ耐え忍ぶにはどれほどの精神力を使うのか。

 赤城葵は一歩、前に出た。



「おいアンタ。ちょっと言い過ぎじゃねぇのか」



 高笑いをやめ、眼球だけをこちらへ向けてくる。

 小物を見るかのような目。

 持っている槍のようなものを突き付け、大男は言う。



「そうだ。小娘の捕獲だけでなく別件としてお前の連行も指示されてるんだった」



 --なに? 連行だと?

 よく分からず巻き込まれたこの世界で右も左も分からないまま連行される。

 それが移民管理委員なら分かる。

 たがこのような性格の悪い男に連行されては未来の希望が薄い。

 この場を切り抜けることに能の血液を使う赤城。



「連行ってどこにだ」


「そりゃローラ学園だ。お前には殺人の疑いがある。大人しく付いてきてもらう」


「なんだと」



 殺人の疑い。

 今さっきこの世界に来たばかりの人間に向かってかける疑いじゃない。

 それに巽以外一人だっていない草原にいたというのに殺人なんかできるはずもない。

 それを認識していて言っているのなら何かしらの裏がある。



「何であなた達がお兄さんを連れて行くの。転移者の第一処理は移民管理委員のはずでしょ」



 巽真凛がそう言い放つ。

 


「これは特例だ」


「そんな勝手が許されるわけない!」


「そんなことはどうでもいい。お前は静かにしてろ」



 合津は足を一振りした。

 それだけで少女の体は宙を舞い、地面に激しく叩き付けられる。

 踏ん張って体を起こそうとする少女。

 畳み掛けるように持っていた槍のようなものの石突で腹を殴打する。

 その衝撃を物語るように距離をとっていた赤城の耳にも鈍い音が届いた。

 その一撃が止めとなり、巽真凛は完全に沈黙した。



 次はお前だと言わんばかりに目標をこちらへ変える大男。

 あんなもので殴りつけられたらたまったもんじゃない。

 逃げ出すために後ずさりを始める。

 でも、どこに逃げる。

 ここは大草原。位置も分からず方角も分からない。

 どの方向に逃げれば人がいるのか、どの選択が最善かわからない。

 それにあの大男には何かしらの移動手段がある。

 草原のど真ん中にいきなり現れ出たのもそれがあってのことだろう。



 距離を詰めさせないことが精一杯の赤城。

 そんな赤城を見て大男は言う。



「貴様からは闘争心が感じ取れないな。ならいい。おい、川里。こいつはお前に任せる。俺は巽真凛を持っていく」



 ファイルを両手で抱えた少女に命令を出す。

 少女は素直にそれを聞き入れ、こちらへと近づいてくる。

 ここで初めてこの少女をハッキリと見たが、赤城の目に衝撃が走った。



「あの女の子?」



 そう。

 黒く長い髪に、赤城が見下ろせるほどの身長。

 スタイルのいい小柄な体型。

 今は白いワンピースではなく学校の制服を着ているが、まさしくそうだ。

 ただ、あの時見た少女より若干幼く見える。

 自分と同じくらいの歳に見えたが、今は中学生くらいの印象だ。

 人違いなのか?

 そう赤城が考えていると既に少女は目の前にいた。

 少女のセリフが先行する。



「風紀委員特別監視部所属、川里寿子です。あなたを風紀委員室まで連行いたします」


 

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