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異世界パラドックス  作者: あかま
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第5話 風紀委員

「何でホラ吹いてんだあの人殺し。謎を解くってお前らがやってんのはただの未開拓地域の調査だろうが」


「巽真凛の座標取得しました。いつでもいけます」


「ならすぐに行くぞ。これで三度目の脱走だ。そのせいで俺の仕事が無駄に増えてんだ。今回は覚悟してもらう」


「では早速」



 町と草原を分ける境界線で会話をする大男と少女。

 二人は果ての見えない草原を視界に入れ、後ろには住宅が不規則に並んでいる。

 不規則というのは住宅を隔てるように田んぼがあるからだ。

 ここ数か月暑い気温が続いており、田んぼは稲の緑で一面を覆っている。



 大男は道路の端に座っている。足は宙に投げ出され、面倒くさそうに五十メートルほど下に広がる草原を見つめていた。

 とても見渡しがいいのだがそれでも草原の先を見ることはできない。

 大男は少女が手のひらサイズの機器を起動する前に言う。



「言っとくが、今回の件はお前の監視の不行き届きが原因だ。小娘を捕まえた後、お前も始末書を書いてもらう」


「はい」


「あまり問題を起こすなよ。風紀委員とはいえ非正規メンバーだ。いつでも補充はきくし、除名ができることを忘れるな」


「分かっています」


 少女の淡々とした返答につまらなそうな表情を見せ、大男は立ち上がる。


「行くぞ。流血くらいで騒ぐなよ」


--------------------------------------


 少年、赤城葵は徐々に現状を把握してきた。

 ここを異世界と断定するのはまだ早計だが、少なくとも生まれ育った島ではない。

 一瞬で居場所が変わったのは不思議ではある。それでもまだここが日本だという可能性も十分ある。

 日本でなくとも地球上のどこかである可能性も。



 ただ、少女は言う。

 私たちは地球から連れてこられた、と。



 それならここは地球ではない他の惑星ということか。

 それとも本当に異世界なのか。

 少女は2117年から来たと言っていた。

 これらの現象を受け入れ、調査するためにもとりあえずはこの少女から情報を抜き出さないといけない。 赤城は少女に質問する……前に。



「俺の名前は赤城葵だ。よろしく」



 名乗られたのだから名乗り返さなくては失礼にあたる。

 とりあえず最低限の礼儀は果たしたので、質問をする。



「それで悪いけど、今置かれている状況を知りたい。キミは今2117年から来たと言ったが、それは本当か?」


「そんなことよりさ」


 少女は一歩足をこちらに踏み込み体を寄せる。

 その小さな両手で赤城の右手を掴むと、微笑みながら言う。


「歩きながら話さない? お兄さんが移民管理委員に持って行かれる前に色々と学園街を案内したいんだよ」



 まだ幼く、中学生くらいの少女であるが、顔やその身の丈は子供と分類するには至らなかった。

 積極的に身体に接してくるあどけなさに少しの高揚を見せる。

 髪のシャンプーの香りや柔肌に心臓の高鳴りを隠せない赤城。

 それでもあふれ出る情欲を掻き消し、少女に引かれる形で歩き出した。



「2117年から来たってのはもちろん本当だよ。こんな人気のないとこに飛ばされてきちゃったから現状把握は難しいだろうけどね。街まで行けばそんな人山ほどいるから。というかそんな人しかいないんだけどね」


「そう。ならそこに行ってから本格的な詮索をするか。じゃあ、移民管理委員って何? さっきからちょいちょい出てくるけど」


「移民管理委員はローラ学園の委員会と呼ばれる機関の一つだよ。だから正確には移民管理委員会だね」


「学園と委員会か」


「移民管理委員は生徒会、風紀委員と一緒に学園三大勢力って呼ばれていてね、規模が大きいんだ。活動内容だけど、今回のお兄さんのようにこの世界に連れてこられた人間を突き止め、この世界でどのように生きていくかを示す活動をしているんだ」



 つまり赤城以外にもこの世界に連れてこられた人がいる。

 少女が言うにはこの世界で生きている人間は全てそれに該当する。

 いきなり転移した人間はその状況を飲み込めずにいるが、その人間に対し秩序を与える役割を担っているのが移民管理委員会。

 疑問や疑念はまだまだあるが、赤城はここで素朴な質問をする。



「そういえば、何でキミはなにもないこの場所にいたんだ?」


 その間、赤城は少女に手を引かれ付いていく形は変わらない。


「言ったでしょ。私の初めての友達ができた大切な場所だって。だからよくここに来るんだ」


「見ず知らずの俺にここまでよくする理由は?」


「そりゃお兄さんが目の前にいきなり現れるんだもん。ここには隠れるところもないし、何も話しかけないってのが不自然だよ。それに私はお兄さんが気に入ったってだけ」


「気に入るってどんな風に?」


「気に入るは気に入るでしょ。お兄さん……その、馴染みやすい雰囲気だったからさ。仲良くできるかなぁと思って」


「仲良くできると思ったのか?」


「そ、そうだよ。ダメ……だったかな」


「じゃあその右ポケットに入っている拳銃はなんだ?」



 少女は快活に歩んでいた足を止める。

 こちらからでは表情を確認できないが、恐らく……。



「お兄さん、何でこのこと知っているの?」



 急に背中に冷たいものが走った。

 男の腕力で掴まれている手を振りほどく。

 それから一切動こうとしない少女、巽真凛。

 俯くその後ろ姿はまるで人生に絶望したかのような情けないものだった。

 巽から距離をとろうとした時だった。



「さっさとそこから離れろ新来者!! 死にたくなけりゃな!!」



 声がした。

 男の声だ。

 このだだっ広い草原の中で、かなり近い位置から声がした。

 既にこの草原の四方は確認している。隠れるところもなければ草陰に潜められるほど草の丈は長くない。

 辺りに赤城と巽以外はいなかったはずだ。

 一体どこから……。

 赤城は声につられるように右を向く。そこには、



「風紀委員正規メンバーの合津光生だ! 見つけたぞ殺戮兵器!!」



 大男が槍のような長物を片手に鬼の形相でこちらへ歩いてきていた。


 

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