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異世界パラドックス  作者: あかま
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第4話 未来の少女

西暦だけ見やすく普通の数字にします。

 


――ここはどこだ



 少年、赤城葵は視界の豹変に頭の整理ができていなかった。

 今さっきまでの海が存在した景色がそこにはない。

 赤城は首を左右に回し、その景色を視認する。



 そこは草原だった。

 右を見ても草原。左を見ても草原。先が見えないまで遠く。その草原は続く。

 広がる草の集団をそよ風が右へ右へと動かしその草の一体感はとても壮大に見えた。

 上を見ると青い空に綿あめのような雲がふわふわといくつも浮いている。

 空の青と優雅に浮かぶ雲の白、大地の緑が視界を二分し圧倒的色彩が百井の瞳に焼付く。



 とても壮観なのだが、結局ここはどこなのだ。

 こんな場所、行ったことはないし見たこともない。

 赤城は生まれながらの島育ちだ。

 島のありとあらゆる場所は熟知しているし、そもそもこんな奥行きも分からない草原があの小さな島にあるはずもない。

 


 ――一体どこへきてしまったのか



 考えれば考えるほど疑問が増えていく。

 そういえば夢かどうかの確認をしていない。

 赤城は右拳を握りしめ自分の顔面めがけて全力殴打を決行した。


 

 ――めちゃくちゃ痛いぞ



 どうやら夢ではない。

 状況を徐々に把握してきたのか、額には冷や汗が流れ始めた。

 とりあえず、人を探そうと思い踏み出したその時。



「やぁお兄さん。この場所にくるなんてセンスあるね」



 -- また後ろから声をかけられた!



 そんなにこの背中、隙だらけなのだろうか。

 赤城は振り返る。



 そこには少女が立っていた。

 赤いシャツに下はジーパン。

 両手を後ろに回し、こちらを見上げてあどけなく微笑んでいる。

 黒い髪の毛の肩まで伸びたショートヘア。ふんわりとした柔らかい髪質は風にあびてなめらかにそよいでいた。

 比較するのもあれだが、先に出会った謎の少女よりかは身長が低い。一五〇センチくらいだろうか。



 少女は続ける。



「ここはね。私の初めて友達ができた大切な場所なんだ。綺麗なところでしょ」



 ――まあ確かに綺麗だけれど



 赤城にはそれに共感してあげられるほど心に余裕はなかった。

 童顔で幼く見える少女に尋ねる。



「なぁキミ。ここはどこだ。島……じゃないよな?」


「島? んー島と言われるとそれが当てはまったり当てはまらなかったり。少なくとも四方を海で囲まれた陸地ではないね」


「この近くに海は?」


「ないよ。というかこの世界に海なんて存在してないよ?」



 ――どういうことだ?

 とりあえずここが元いた場所ではないことは分かった。

 ただ、この少女の二つの奇怪な言葉。



 この世界。

 海が存在していない。



 赤城が今すべきは情報を集めて現在位置を把握すること。

 家に帰る。これを一番としなくてはならない。

 幸いこの少女に日本語は通じるので国内であることは想像できる。



「海が存在していないってどういうことだ?」


「さぁ? 私だってこの世界については詳しくないからね」


「つまりどういうことだ」


「私もお兄さんみたいに地球から連れてこられたってこと」



 ――地球から連れてこられた?

 ここは地球ではないということなのか。

 そんなわけない。

 草も生えてるし、青空だってあるし、日本語が成立している。

 地球、というか日本じゃないわけない。



 とはいえ海が存在していないのに海を理解して話しているのも胡散臭い。

 現実味がなさすぎてどうにも受け入れられない。



「でもお兄さんラッキーだったね! みんなこの世界に転移してから大多数の人は数時間一人っきりで見知らぬ土地を歩かなくちゃいけないんだよ! それがどうだい。私っていう情報屋がいてくれたことに感謝してほしいね!」



 なにやらいきなりテンションをあげてきた。



「明らかに私の方が年下だけど、この世界については先輩だからね! 何でも相談に乗るよ!」


「じゃあ元の場所に帰りたい」


「それは無理だよ」



 鼻で笑うように即答された。

 少女は楽しそうに赤城の周りを歩き出す。



「この世界に来たからには一年間は元の場所には帰れない」


「一年も?」


「たったの一年だよ。それにただ一年間無駄に時間を過ごすわけじゃない。貢献しなきゃいけないんだ」


「貢献だと?」


「そう。この世界にいる人間は全員地球から連れてこられた。それも1900〜2179年と幅広い年代から。ここにいる人たちはこの世界についてまだ詳しく知らないんだ。何故地球から招かれるのか、何故年代が違う人々なのか。この世界はなんのためにあるのか。まだまだ未開拓の土地だってある。もしかしたらその先に海が存在しているかもしれない」



 会話の主導権は完全に少女であるが、赤城は黙ってそれを聞く。



「ま、こんな話私がしなくてもいずれお兄さんを学園に連れて行く移民管理委員から直接聞くだろけど」



 移民管理委員。なんだろう。どこかで目にした気がする。

 そうだ。さっき見ていたサイトの中にそんな文字があったような。



「詳しい話は移民管理委員からしてもらって。とにかく貢献だよ! この世界の謎を解こう!」


「途中で話を他に任せられてこっちは何が貢献なのかわかんないけどな」


「とりあえず一緒に学園街に行ってみる? そういえば聞いてなかったけどお兄さんが元いた時代って西暦何年?」



 何故ここで西暦を尋ねてくるのかもわからない。

 ただ赤城の頭は訳の分からない要素が詰め込みすぎてしまってパンクにも似た症状が出始めている。

 何故いきなりこの場所に来てしまったのかの説明もされていない。

 海が存在しなかったり地球から連れてこられたとかいうおかしな話もあるし。

 ここは異世界なのか?

 本当に。


 

 異世界。

 そういえばここに来る前にそんなサイトを見た。

 ロボットがいたとか、明治や昭和の街並みとか、すごい速さの電車とか。

 そしてその世界に行くための前兆が確か……。



 見知らぬ人に声をかけられること。



 見知らぬ人に声を……かけられたぞ。

 そういえば島の海岸線を歩いていたら突然見覚えのない少女に声をかけられた。

 もしかしてあれがそうなのか。



 ということはここは本当に異世界?

 段階を踏んで状況整理していく。

 確かその世界は色々な年代の人がいると言っていた。

 少女も先ほど1900~2179年から人が集まっていると言っていた。

 この少女の問い、答えようによっては。



「2017年」



 赤城は素直にそう答えた。

 そして。



「じゃあ平成からきたのか。うん! ならビックリすると思うよ。超科学都市ってやつ見たらさ」



 少女は歩みを止め、赤城の前で止まった。

 右手をゆっくりこちらへ向け言う。



「私の名前は巽真凛。2117年から来たんだ。よろしく、お兄さん」





 

 

 

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