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異世界パラドックス  作者: あかま
25/29

第24話 二人の行方

 


 師走大河。

 現在四人いる風紀委員正規メンバーの一人である。

 男にしては小柄な体格で、腕も脚も筋肉質というわけではない。

 短髪に爽やかな顔立ちという女性受けがしやすい容姿だが、この小柄がマイナス要素となっている。



 学園の風紀を守る。

 三大勢力と呼ばれる風紀委員会だが、基本業務は単純だ。

 


 生徒の服装の乱れ。

 遅刻者のチェック。

 喧嘩の取り締まり。

 学園内の男女間トラブルの抑止。

 他にも人工知能が散りばめられるローラ学園内及び学園外のロボットの正常チェック。

 水面下で生徒会の監視など。



 別に勢力と言っても大きな権力が与えられているわけではない。

 単に地球での行い、地位、名誉が目立ったものが集まっているからそう外部から評価されているだけにすぎない。

 ただ、そのせいでテロ組織などの暴力行為で出張るのは風紀委員の役目と認知されているのがとても辛いところでもある。

 


 師走大河の出身は2120年。

 ちょうど第四次世界大戦が終了した年にあたる。

 しかも終戦後すぐに転移したため直後に起きた第二次AI侵攻についてはパンゲアについてから知った。

 第四次世界大戦ではずっと戦場で使いまわされていた。

 日本軍の奴隷のように指示を出され。

 そのたびに任務を完遂してきた。

 ほぼ完璧に。



 それでも周りからの評価が変わることはなかった。

 それくらいできて当然なんだと。

 そのためにつくりあげたのだと。

 別にその時は気にしていなかった。

 これが自分が生きる道なのだと思い込んでいたから。



 戦場に立つことが師走大河の生きる道だと。

 戦場で人の死体を山ほど見てきた師走の価値観は明らかに他の時代の人間とは異なっていた。



 だから風紀委員の業務は好きになれない。

 地味すぎる。

 見てて恥ずかしい一面だって覚悟をもって突っ込まなければならない。



 男女間トラブル。

 特にキスとかしている二人を止めに入るのは戦場とは違った度胸がいる。

 女性ってなに?

 と思うほど師走は戦場の味が染みついていた。



 師走大河は自信を持って言える。

 風紀委員で一番好きな仕事内容は?

 もちろんこういうやつだ。



「テロリストの一人、トライス・サンダーソンの無力化に成功。無事一般生徒も保護しました」



 耳につける高感度の通信機へと語る。

 師走大河の現在地は平成街。

 その中でもビジネスビルが多く立つ区域だ。

 既に空は暗くなり、目に入る光はビルからの室内灯や電光掲示板、販売促進の看板を照らす光など至る所から飛んでくる。

 情報が飛び交う街。

 とはいえ師走がいるのは人気のない暗がりの公園なので、遠目に見るというだけだ。



 コンパクトに耳穴に収まるその通信先から反応がある。



『お疲れ様です。では面倒とは思いますが、身柄を運んできてください』



 それは女性の声だった。

 師走大河が尊敬してやまない上司の声だった。



「了解です。ですが委員長。何故こいつらはこのタイミングで仕掛けてきたのでしょう」

『恐らくは巽真凛の暴走を狙って私たちの注意を引き、その間に赤城葵を連れ去る。こんな感じでしょうね。タイミングとしては計算されてましたね。監視係が外れて二人きりの時に襲う。まるで監視係が外れることを知ってたかのように』

「偶然でしょうか」

『あまり馬鹿言うもんじゃないですよ。これは完全に必然です。明らかにそれも計画の上での犯行。巽真凛の謎の妨害が働いて兵器化しなかったのは誤算でしょうけど』

「計画ってことは」

『ええ、いますね。この学園にテロリストのスパイ、いいや裏切り者が』



 「第二世代……か」



 師走が片足で踏みつけている瀕死のテロリストが何かを吐いた。

 ボロボロに傷ついた金髪の男性。

 『宇宙の戦士』の一員であるこの男が今更何を語ろうとしているのか。



「なんだいキミ。今は委員長と大事な話をしているんだけど。邪魔しないでくれるかな」

「噂には聞いていたがお前か。第二世代ってのは」

「それがどうした」

「人外が」



 師走は右手に持つ大型の剣を地面に勢いよく突き刺した。

 大事な生け捕りであるため殺すことはできないが、その寸前までなら許してもらえる。

 テロリストの言葉が癇に障った師走はそれから男が気絶するまで暴力を加えた。



------------------------------



 こちらも耳につける通信機での会話だった。



『どうだ篠崎』

「もういない。レーダーにも反応……がない。ステルス防護かまたは座標操作の可能性がある」

『こういう時に川里くんが独自に開発した生物波動探知機が欲しくなるね。彼女はその技術を公開しないから困るよ』



 生徒会の篠崎栞。

 学園の中でもトップに君臨する生徒会の五人の一人。

 茶髪のツインテールは肩にかかるくらい。

 その凜とした表情は女性でありながら周囲の女性を虜にし、ファンだっている。

 そのファンからは超お嬢様と思われているが、地球でもこの世界でも全くそんなことはない。

 せっせとコンビニでアルバイトをする普通の学生だ。

 篠崎本人は学園を歩くだけで後を追う行列ができるため、ファンにいい印象を持ってはいない。



 仕事を与えられたら内容がどうだろうとこなしていく。

 今はテロリストの捕獲を生徒会長から指示されているが、それは叶わず終わる。

 テロリストが潜んでいるだろう昭和町に到着した頃には既に気配を消していた。



 篠崎は駄菓子屋の前に突き出しで置いてあるグラムで好き放題とれる菓子群を見つめる。

 通信をしながら片手で目ぼしいお菓子を片っ端からとっていく。

 タンクトップで駆け抜ける子供。

 けん玉で遊ぶ子供など周りは賑やかであるが通信には影響なかった。



「では……戻るね」

『いや待て。その昭和町、もう少し調べていってくれ』

「何故? 明日のティータイムに必要なお菓子は確保したけど」

『イデアコンピュータが妙な動きをしている。最近になってその昭和町へのアクセスが増えた。サラッとでいいから気になるところがないかみてきてくれ』

「……面倒」

『もう19時も近いし、さっさと帰りたいところだね。この問題を終わらせてから』



------------------------------



 保健室。

 なんてものがこの学園にも存在した。

 赤城葵はどこか不思議そうに白がベースのこの空間で静かに座っていた。

 後ろには白いカーテン。

 前には白い掛け布団にベット。

 ベットの近くには花を飾る小さな机があった。

 この花の黄色い色がこの空間で視界に映る唯一の色である。


 

 保健室というのはどこも似たような感じなのだと思った。

 しかし未来にはもっと利便性を追求している保健室も存在していると言われた。

 とはいえ赤城にとってこの見慣れた空間が落ち着くのでこの部屋を選択した。



 そして、このベットの主はというと。

 


「それでね、本当にお兄さんには迷惑かけてからさ。何かお詫びがしたいんだけど、何がいい? 何でもするよ!」



 巽真凛だ。

 手をバタバタさせ必死さを伝えてくる。

 掛け布団を包むとか上半身だけ起こすとかそんな中途半端なことはしない。

 巽はベットの、掛け布団の上に座りながら元気よく喋る。

 さっきの衰弱はなんだったのかと言いたくなる。



 しかし、あの時謎が二つ残った。

 何故、兵器起動寸前までいって急に停止したのか。

 何が外界からの特別な干渉があったようにも思えない。

 巽の意思で食い止めたのか?

 いや、巽はあの時我慢できなかったと発言していた。

 であれば巽の意思ではないということなのか。



 そして、赤城自身何故あの拳銃のロック解除ができたのか。

 何故起動寸前だと理解していたのか。

 人間窮地に追い立たされると真の力を発揮するというやつなのか。



 そんなことを考えるよりまずはこの巽の意味深なセリフだ。

 赤城は色々な欲望を想起し声高らかに言う。



「え! 何でも!」

「赤城さん、真凛に対して爪牙を剥き出しにすることはどういう末路に至るか分かりますね」



 そして赤城の隣には何事もなかったかのようにケロッとした川里寿子がいた。

 いつも通り神妙な面持ちでファイルを抱いていた。



「ちなみにどうなるの?」

「そりゃ死ですよ」

「そっか死か」

「ちょっとお兄さん聞いてる?」



 年下の二人と会話しあうというのは同じ世代からみたら友達がいないやつと見られるかもしれない。

 ただ、この世界にはそういう偏見がない。

 クラスメイトだって8〜21歳とバラバラだし。

 それが当たり前なのである。

 赤城葵は結構この当たり前を結構気に入っている。

 世代がバラバラで時代もバラバラ。

 未来から来たやつも過去から来たやつもいて、これからの人間関係に期待ができる。

 どんな面白い経験をしてきたやつがいるのだろうと。

 どんな世界からきたのだろうと。



 ここまで人間に対して興味を持ったことはない。

 ただただ、楽しかった。



 でもその時間はすぐに。



「巽さん!」



 保健室のドアが怒号をあげた。

 部屋を揺らす大音に思わず肩をあげて驚く赤城。

 その開けた主は駆けるように近づいて、白いカーテンを開けた。



 八歳でクラスの学級委員長を務める南雲すずなだった。

 息をきらし、その顔には悲壮感が漂っていた。

 小さな胸を細い手で押さえ息を整える。

 そして言う。



「巽さん、ここですか」

「委員長、どうしたんだ」

「先の事件で巽さんの人間兵器の一面が露見されて兵器という事実が確実なものになりました」

「……え?」



「巽さんを強制的に地球に返せと騒動が起きてます」

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