チート勇者の絶望
チートな能力を貰って勇者として召喚されて以降、彼の人生は変わった。
何をやっても上手くいかなかった日本での生活とは違い、召喚された異世界での生活は最高と言って良い程に上手くいっていた。
そう、上手くいっていたのだ。
それがどうして、こんな事になってしまったのだろうか。
素直に仲間の助言を聞いておけばよかった。
いつも上手くいっているからと自分の直感を信じたのが間違いだったのだ。
なかった事に出来るならどれだけ素晴らしいだろうか。
あの時に戻れるならば、ぜひ戻りたい。
でも……。
時間は巻き戻らない。
どんなに嘆いた所で、すでに手遅れなのだ。
目の前にある圧倒的なまでの絶望に眩暈を感じる。
目を閉じて開けば、夢から覚めるように目の前の絶望は消えてくれるだろうか。
当然、そんな都合の良い事はない。
彼もわかっている。
それでも願わずにはいられなかった
勇者は絶望に頭を抱えた。
そのまま頭を掻きむしり、泣き喚いてしまえたらどんなに楽だろう。
だけど勇者である自分が、そんな情けない姿を見せる訳にはいかない。
どんな絶望が目の前にあったとしても立ち向かって行かなければいけないのだ。
目の前の強敵を彼は真っ直ぐに見つめる。
背中を嫌な汗が流れた。
鼓動が早くなる。
それでも勇者である以上、逃げる訳にはいかない。
覚悟を決めて強敵に挑もうとした所で、彼は気づいてしまった。
同じ奴が他にもいる事に。
しかも驚くほどに多い。
これは詰んだ。
彼は天を仰いだ。
「最悪だ……」
その声はまるで自分の声ではないようだった。
「どうしてグリンピースがこんなにたくさん入っているんだ……」
こんなことならB定食を選べば良かった。
彼の呟きは食堂の喧騒に掻き消された。