龍王様は異常です・シアン視点
今日は雲が空を覆う日だった。分厚い雲に覆われた太陽は時折顔を出しては地上を照らしてくれる。そんな天気等気にも留めず、私シアン・ドレシアスはいつも通りギルドで業務に勤しんでいた。
今年で漸く18となる私は長寿な者が多いエルフの中ではかなり若い。
エルフは通常18歳まで成長するとそこで肉体の成長は終わり、死するその寸前まで同じ見た目のまま生きて行く。私の父と母もその例に洩れず、私が生まれた時から今まで容姿がまったく変わってい無い。
そんなエルフ族はその長寿性に加え、総じて見目麗しい容姿をしている。何千年も変わらぬ美貌と言えば体が良いが、実際には常にその容姿の良さに目を付けた者達から狙われる続けると言う事がある。それを止めたのが龍神ドラグス・V・マグナート様だと言う。
これは曽祖父から聞いた話しなのらだが、かつて人類は未踏破領域では無かった僅かな土地を狙って幾度と無く争ってたと言う。そして数万年前、それを憂いた龍神様がこの世界に降臨なされて未踏破領域を開拓するための力を授けてくれたそうだ。
その力を使い人族達は未踏破領域をどんどん開拓して行き、そして今、この世界はかつての何十倍の広さとなっていた。龍神様の加護と、先人達が命を賭して戦ったが故に今の世界があるのだと言う。
話が逸れた。
つまり何が言いたいかと言うと私もその例に漏れ無いエルフだと言う事。
「シアンちゃん、今日の夜ご飯でもどう?俺が奢っちゃうよ〜」
「すいません、夜は明日の業務の準備があるのでご遠慮します。失礼ですが次の方がお待ちなのでご用件がお済みでしたら横に逸れて下さい」
「つれないなぁ」
このように色々な人が毎日のように私を口説こうとして来る。断っても断ってもだ。この仕事に就いてそろそろ2年になるがこればっかりは何時になっても変わらない。いい加減辟易して来る。
自慢では無いが私は仕事の早さには自身がある。そのおかげで私を口説こうとしてくる探索者達の相手をしていても業務にそこまでの支障は無い。今回並んでいる人物も既に残り5人程度だ。これなら10分もかからず終わるだろう。
その時だった。
唐突にギルド内の人の波が割れた。何事かと思いチラリとそちらを見ると、その正体に衝撃を受けた。
いたのは人間の青年。歳の頃は私と同じか少し下と言ったところだろうか。だがそんな事より何より目を惹くのがその青年の容姿だ。漆黒と言う表現が適切な色をした髪を僅かに逆立たせており、それでいてなお気品すら漂わせている青年。その中でも特に異彩を放っているのは猛々しく光る少年の双眸。
(黄金色……?)
そんな人間見た事無い。私は一瞬その青年に見惚れかけ、ハッとして辺りを見渡すと青年の姿を目に入れた同僚の受付嬢達は皆一様に青年の容姿にほぅっ……と見惚れている。皮肉な事にそんな同僚の様子を目に入れる事で冷静になれた私は助かったと言える。
私はなるべく青年を視界に入れないようにして業務を再開させた。先程まで私の前に並んでいた者達の対応を終えると、いつの間にかもう一人私の前に並んでいた。ああ、青年を目に入れないようにしていたから気付かなかったのか。私はそう判断して僅かに顔を上げると、驚く事にそこにいたの件の青年であった。
(せっかく視界に入れないようにしていたのに……)
そう思いながらもギルドの受付嬢としてこの青年の対応もせねばと覚悟を決めて言葉を発する。
「こんにちは、貴方様はお初ですね。私シアンと申します」
こんな目立つ容姿をしている者だ。以前からここに通っていたら噂程度は耳にするだろう。私はそう確信して青年な声を掛ける。
「む、これは丁寧に。我はドラグス……いや、ドラグと言う。忙しいところすまぬがここはどう言う所なのだ?恥ずかしながら我は現在のこの世界に疎くてな……」
ここで初めて声を発した青年の声は見た目に反して低く、しかしそれでいて心地良く耳に残るような透き通る声をしていた。喋り方が年寄りじみていると感じるが、寧ろ青年の声音と雰囲気にその喋り方はしっかりとあっているように思えた。しかし最初に名乗りそうになったドラグスとは何なのだろうか?伝説の龍神様と同じ名前だ。
(大方彼の親御さんが龍神様の名を付けたのでしょうね。そして彼はその名を名乗るのに抵抗がある……とか?まぁ訳ありの探索者希望の方も多い事だし、彼もそう言う境遇の人かもしれないですね)
なので私は特に聞かなかった事にしようと口を開くが、少し思考をしてしまったため言葉の前に僅かに間が出来てしまったが、一瞬なので問題無いだろう。
「……ドラグ様ですね。ドラグ様の言によるとドラグ様はギルドの事や迷宮の事をあまり理解しておられない様子です。よろしければご説明しますのでどうぞ」
私は青年改めドラグ様を応接室に案内した。勿論カウンターに並んでいる人がいない事を確認してからである。
「すまぬな、忙しいだろうに我の都合でこうしてもらって」
応接室で私が資料を用意しているとドラグ様は申し訳無さげに告げた。
「いえ、構いません。これも私達の仕事のうちです」
律儀な人だなと思いつつもそう答え、用意した資料をドラグ様に差し出そうと振り返り、そこで漸く私達はまともに顔を合わせた。
ドラグ様の容姿は近くで見ると本当に整っており、先も述べた髪は勿論、黄金色の双眸は全てを見透かされているような錯覚に陥る。身に纏う衣服は見た事も無い材質で、明らかに普通の物では無いオーラを放っている。
分かっていても少し動揺をしてしまう。そんな私にドラグ様は少し訝し気にするも直ぐにその気配を霧散させる。感が鋭い。
(本当にこの人は何者なのだろうか)
脳裏をよぎる疑問を表情に出さ無いように注意しながら私は用意した資料をドラグ様に差し出した。
「それでは説明に入ります。ドラグ様のお聞きしたい事はなんでしょうか?」
そう聞いた時に返ってきたドラグ様の質問は私の予想を遥かに上回るものだった。
(この人、大迷宮都市や探索者を知らない?)
思わず表情を崩してしまい、驚きを悟られてしまったが、直ぐにいつも通りの表情に戻してドラグ様の問いに答えた。どんな質問をされようとも私は私の仕事をきちんとこなすだけ。それが例えどんな内容だろうと探索者の人が望むならそれに答えるのが受付嬢の仕事と言うもの。
それから数十分かけてドラグ様がして来た全ての質問に答えた。ドラグ様は時折ふむ、とかなるほどと言って理解を示してくれた。どうやらドラグ様相当理解が早い方のようで返事の全てが全てを理解していると言う確信に満ちていた。こんな簡単な説明だけでここまで理解出来るなんてもしかしたらドラグ様は私なんかよりずっと頭が良いのかもしれない。
その後武装している人達の事の説明を終えるとドラグ様は悪戯っ子染みた笑みを浮かべ探索者になれるのか?と聞いてきた。
私はてっきりドラグ様は元より探索者希望だと思ってこの部屋を用意したので、このままドラグ様が帰ってしまったら勝手にこの部屋を使った事で怒られてしまっていたので正直助かった。
それからはパパッと進みドラグ様の探索者登録を終えた。少し弱気なところも見せてしまったがそれ以外に対した問題は起こらなかったのは幸いだったかもしれない。ただ一つ驚いた点を述べるなら武器を選ぶ際、私があれほど大袈裟に魔道器の欠点を述べたのにもかかわらず、魔道器を選びになった事だ。とは言えドラグ様ならもしかしたら本当に魔道器を使いこなしてしまうかもしれないな。
全ての行程を終え、このまま迷宮に行っても構わないと言ううまを伝えると、ドラグ様はジッと私を見詰めて来た。この視線、私じゃなかったら卒倒ものですよ。
「なんでしょうか?」
だけどやはり誰であろうと人に見詰められると落ち着きは無くなる。
落ち着かない気持ちになった私はドラグ様にそう聞くと、ビシリッ!と言う擬音が聞こえてきそうな感じでドラグ様の指が私の口を指差した。
「その口調だ」
ドラグ様は私の口を指差しながらそう言う。聞くとどうやら今後も付き合って行く事になるのだからこの丁寧な口調はやめて欲しいとの事だった。正直こんな事を言われるのは初めてで少し驚いてしまうが、実際の話私もこの話し方には少し疲れるものがあったので少し迷った末にコクリと頷いた。と言っても私は元々こう言う口調なのであまり変わらないけど。
自分では気付かなかったが、この時私は少し笑っていたらしい。
「分かりました。ドラグ様……いや、ドラグさんがそう言うなら遠慮無くそうさせて貰います。とは言え、私の口調は元からこの口調に近いものなのであまり変わりませんがね。ですがせめて様付けは止めますね」
「なんだ元よりそのような口調であったのか。まぁそれならば良いわ。
ではそろそろ我は行くとしよう。世話になったな」
ドラグ様……ドラグさんは私の返事に満足そうに頷き、最後私の肩をポンっと叩いてそのまま部屋の外へ出て行き、直ぐに見えなくなってしまった。
「変わった人……」
一人残った私はドラグさんに叩かれた肩に手をやり、無意識にそう呟いていた。その時の私の顔は私の意思とは関係無しに僅かに微笑んでいた。
はい、まず一つフラグが立ちましたね 笑